どこもかしこも花だらけの、花まつり真っ最中のフォルーリロの都を、ヴァニスと二人で歩いている。
「ヴァニス、お昼ご飯はどうする?」
「んー、そうだな……アレとかどうだ? ハチミツのピザだって」
「ピザにハチミツなんてあるんだ」
近くのカフェの看板には、当店名物ハチミツのピザという文字と、可愛いミツバチのイラストが描かれていた。
店内に入り、ハチミツのピザと特製サラダ、ソーセージの盛り合わせにドリンクを注文する。
窓際の席に座ってしばらく待っていると、出来立てホカホカの料理が運ばれてきた。
たっぷりのハチミツとチーズが使われたピザ、食用らしい花がちりばめられたサラダ、花の飾り切りが可愛いソーセージ、アイスティーとアイスコーヒーが淹れられたグラスにも花の模様が施されている。
「見事に花まみれだな」
「そうだね……これとか、どうやって切ってるんだろう」
どれも凄いけど、僕はソーセージの飾り切りが気になっていた。
料理で重要なのは味と栄養だけど、こういうさり気ない遊び心も、食事を楽しむ要素の一つになると思う。
「……っと、けっこうとろけるぞ、コレ」
「わ、本当だ。お皿に受けて食べた方がよさそう」
ハチミツのピザを手に取ったヴァニスが、熱によってトロトロになったチーズとハチミツに苦戦している。
僕も一切れ取ってみたけど、これはなかなかのトロけ具合だ。
しかし、ハチミツの上品な甘さと、チーズの塩加減と濃厚さが絶妙なバランスで合っていて、クセになりそうな美味しさでもある。
シャキシャキのサラダやプリプリのソーセージも絶品……これはアタリのお店に出会えたな。
一通り食べ終わり、アイスティーを口にしながらヴァニスのほうを見る。
コーヒーを飲みながらいい笑顔になっているので、彼も満足したようだ。
「この後はどうする?」
「うーん……シエルは行きたいとことかあるか?」
「僕は特に思いつかないかな……この町に何があるかも分かんないし」
「じゃあ、適当にブラブラするか?」
「そうだね」
席を立って、お土産にレジの傍に置かれていたローズヒップのハーブティーの茶葉を追加し、お会計をする。
相変わらずどこもかしこも花だらけの大通りには、恋人や夫婦と思われるカップルも行き交っていた。
この状況的に、メルが言っていた悪い虫というのは、きっと一人で楽しんでいる人を狙うような連中の事なのだろう。
「あっ、展望台だって」
通りを見回しながら歩いていたら、「展望台」の文字と花の絵が描かれた看板が見える。
他の看板に比べて大きいから、この都の一押しスポットという事なんだろうか。
「行ってみるか?」
「うん、ちょっと気になるし」
他に行くところもなかったし、こういう観光らしい事もしたいな、と思ったので、看板が示す方へと歩いていく。
町の中でも高い位置にあるその場所に着くと、向こう側には見渡す限り一面の、巨大な花畑が広がっていた。
しかも、植えられているほとんどの花が咲き誇っているので、文字通り花の絨毯のようだ。
花畑の間には遊歩道もあるようで、何人かの人が歩いているのも見える。
「すごいね……」
「ああ、世界一の花の都ってのも納得だよな」
「せっかくだし、中を歩いてみる?」
「そうだな、腹ごなしにもよさそうだ」
僕たちは展望台からの眺めを堪能した後、端っこにあった階段を下りて、見事な花畑の中を進んでいく。
馴染みのある花から名前の分からない花まで色々あるが、いろんな種類のたくさんの花の間を通っていくのは、なんだか特別な気分だ。
気になる花があったら、時々立ち止まって観察したりして、また次の花壇の方へ進む。
そうしてしばらく歩いて、色とりどりのチューリップが見渡せる場所にあったベンチで、いったん休憩する。
優しい風に吹かれて、仲良くゆらゆらと揺れるチューリップが、なんだか可愛らしく思えた。
「……あれ? あそこにいるの、ディディさんと柴瑛君?」
「そうみたいだな。二人も来てたのか」
チューリップ畑の向こうのさらに向こうの方、ここからだとなんとか二人の姿が見えるくらいの距離に、見慣れた二人の姿がある。
こうやって遠くから見てると、本当に恋人同士のように見えるな。
「やっぱ、ディディさんは柴瑛の事、好きだよな」
「え? どうして分かるの?」
「あの人、気付いたら柴瑛の事ばっか見てたぞ」
「そうなの!? 僕、全然気づかなかったよ」
「シエルは柴瑛と一緒に、メシ作ってくれたりしてたから、そこまで気が回らなかったんじゃないか? それに俺やシャルムさんの前では、ディディさんもそんな気はない素振りをしてたしな」
「そうなんだ……」
まさか、メルの言ってた事が本当だった?
うーん……でも、ヴァニスもまだ、そうじゃないかっていう予想の範囲だしなぁ。
「うーん……」
「そんなに考えこまなくてもいいだろ」
「でも、一緒に旅してる仲間なんだし……やっぱり気になっちゃうよ」
「俺の事をもっと気にしてくれたらいいのに」
「え?」
「え? ……あ、い、いや違う! 今のは気のせいだ!! なんも言ってないぞ!!」
「え、あ、うん……?」
自分で言ったのに恥ずかしくなったのか、ヴァニスはチューリップみたいに赤くなっている。
僕としては、ヴァニスの事を気にしてなかったわけじゃないけど、一緒に居る事が当たり前みたいになってたから……。
ヴァニスの事をもっと気にする、なんて言われても、具体的にはどうすればいいのかな。
一緒に暮らしてるも同然だし、何かの時にはちゃんと声をかけてるし、いろいろとと助けてくれるし、喧嘩だってした事ないのに……。
……ん? それってもしかして、逆に熟年夫婦みたいになってるんじゃ!?
いやいや、熟年って!! 僕たちキスすらした事ないんだよ!?
ヴァニスが向こうを向いたから気づかれてないと思うけど、彼同様に赤くなったのが、自分でも分かる。
これはこれで、考えないといけない問題なのかもしれないな……。
「ヴァニス、お昼ご飯はどうする?」
「んー、そうだな……アレとかどうだ? ハチミツのピザだって」
「ピザにハチミツなんてあるんだ」
近くのカフェの看板には、当店名物ハチミツのピザという文字と、可愛いミツバチのイラストが描かれていた。
店内に入り、ハチミツのピザと特製サラダ、ソーセージの盛り合わせにドリンクを注文する。
窓際の席に座ってしばらく待っていると、出来立てホカホカの料理が運ばれてきた。
たっぷりのハチミツとチーズが使われたピザ、食用らしい花がちりばめられたサラダ、花の飾り切りが可愛いソーセージ、アイスティーとアイスコーヒーが淹れられたグラスにも花の模様が施されている。
「見事に花まみれだな」
「そうだね……これとか、どうやって切ってるんだろう」
どれも凄いけど、僕はソーセージの飾り切りが気になっていた。
料理で重要なのは味と栄養だけど、こういうさり気ない遊び心も、食事を楽しむ要素の一つになると思う。
「……っと、けっこうとろけるぞ、コレ」
「わ、本当だ。お皿に受けて食べた方がよさそう」
ハチミツのピザを手に取ったヴァニスが、熱によってトロトロになったチーズとハチミツに苦戦している。
僕も一切れ取ってみたけど、これはなかなかのトロけ具合だ。
しかし、ハチミツの上品な甘さと、チーズの塩加減と濃厚さが絶妙なバランスで合っていて、クセになりそうな美味しさでもある。
シャキシャキのサラダやプリプリのソーセージも絶品……これはアタリのお店に出会えたな。
一通り食べ終わり、アイスティーを口にしながらヴァニスのほうを見る。
コーヒーを飲みながらいい笑顔になっているので、彼も満足したようだ。
「この後はどうする?」
「うーん……シエルは行きたいとことかあるか?」
「僕は特に思いつかないかな……この町に何があるかも分かんないし」
「じゃあ、適当にブラブラするか?」
「そうだね」
席を立って、お土産にレジの傍に置かれていたローズヒップのハーブティーの茶葉を追加し、お会計をする。
相変わらずどこもかしこも花だらけの大通りには、恋人や夫婦と思われるカップルも行き交っていた。
この状況的に、メルが言っていた悪い虫というのは、きっと一人で楽しんでいる人を狙うような連中の事なのだろう。
「あっ、展望台だって」
通りを見回しながら歩いていたら、「展望台」の文字と花の絵が描かれた看板が見える。
他の看板に比べて大きいから、この都の一押しスポットという事なんだろうか。
「行ってみるか?」
「うん、ちょっと気になるし」
他に行くところもなかったし、こういう観光らしい事もしたいな、と思ったので、看板が示す方へと歩いていく。
町の中でも高い位置にあるその場所に着くと、向こう側には見渡す限り一面の、巨大な花畑が広がっていた。
しかも、植えられているほとんどの花が咲き誇っているので、文字通り花の絨毯のようだ。
花畑の間には遊歩道もあるようで、何人かの人が歩いているのも見える。
「すごいね……」
「ああ、世界一の花の都ってのも納得だよな」
「せっかくだし、中を歩いてみる?」
「そうだな、腹ごなしにもよさそうだ」
僕たちは展望台からの眺めを堪能した後、端っこにあった階段を下りて、見事な花畑の中を進んでいく。
馴染みのある花から名前の分からない花まで色々あるが、いろんな種類のたくさんの花の間を通っていくのは、なんだか特別な気分だ。
気になる花があったら、時々立ち止まって観察したりして、また次の花壇の方へ進む。
そうしてしばらく歩いて、色とりどりのチューリップが見渡せる場所にあったベンチで、いったん休憩する。
優しい風に吹かれて、仲良くゆらゆらと揺れるチューリップが、なんだか可愛らしく思えた。
「……あれ? あそこにいるの、ディディさんと柴瑛君?」
「そうみたいだな。二人も来てたのか」
チューリップ畑の向こうのさらに向こうの方、ここからだとなんとか二人の姿が見えるくらいの距離に、見慣れた二人の姿がある。
こうやって遠くから見てると、本当に恋人同士のように見えるな。
「やっぱ、ディディさんは柴瑛の事、好きだよな」
「え? どうして分かるの?」
「あの人、気付いたら柴瑛の事ばっか見てたぞ」
「そうなの!? 僕、全然気づかなかったよ」
「シエルは柴瑛と一緒に、メシ作ってくれたりしてたから、そこまで気が回らなかったんじゃないか? それに俺やシャルムさんの前では、ディディさんもそんな気はない素振りをしてたしな」
「そうなんだ……」
まさか、メルの言ってた事が本当だった?
うーん……でも、ヴァニスもまだ、そうじゃないかっていう予想の範囲だしなぁ。
「うーん……」
「そんなに考えこまなくてもいいだろ」
「でも、一緒に旅してる仲間なんだし……やっぱり気になっちゃうよ」
「俺の事をもっと気にしてくれたらいいのに」
「え?」
「え? ……あ、い、いや違う! 今のは気のせいだ!! なんも言ってないぞ!!」
「え、あ、うん……?」
自分で言ったのに恥ずかしくなったのか、ヴァニスはチューリップみたいに赤くなっている。
僕としては、ヴァニスの事を気にしてなかったわけじゃないけど、一緒に居る事が当たり前みたいになってたから……。
ヴァニスの事をもっと気にする、なんて言われても、具体的にはどうすればいいのかな。
一緒に暮らしてるも同然だし、何かの時にはちゃんと声をかけてるし、いろいろとと助けてくれるし、喧嘩だってした事ないのに……。
……ん? それってもしかして、逆に熟年夫婦みたいになってるんじゃ!?
いやいや、熟年って!! 僕たちキスすらした事ないんだよ!?
ヴァニスが向こうを向いたから気づかれてないと思うけど、彼同様に赤くなったのが、自分でも分かる。
これはこれで、考えないといけない問題なのかもしれないな……。
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