オルバートさんについて行った場所は、いかにもな騎士団長の執務室だった。
 そこには書類と戦っている、青く長い髪に緑色の目をした細身の魔法使い風の人が居る……この人がクラニスさんかな?

「まさかとは思ったけど、本当に二人とも来てたんだ。こつぶちゃん付きで」
「久しぶりだな、クラニス」

 父様の言葉からしても、やっぱりこの人がクラニスさんのようだ。
 こつぶちゃんというのは、もしかして僕たちの事だろうか。

「聞きたい事はいろいろあるけど、なんで第六支部をボコボコにしたの」
「ボコボコにされるような事をしてきたからよ」
「そう。ま、あいつらにはいいお灸だったかもね」
「どういう意味よ?」
「こっちにもいろいろ事情があってね。立ち話もなんだし、座ったら?」

 そう言ってクラニスさんは、僕たちをソファへと促す。
 オルバートさんがテーブルを挟んで向かい側に座り、こちら側には父様とディディさんが並んで、僕とヴァニスはちょっとずれた端っこの方に座った。

「こつぶちゃん達にはつまんない話だから、お菓子でも食べて待っててね」
「あっ、ありがとうございます」
「どうも」

 クラニスさんは僕とヴァニスに、箱に入ったチョコレートとクッキーの詰め合わせに、オレンジのジュースを出してくれた。
 こつぶちゃんというのは、やっぱり僕たちの事だったようだ。
 そしてクラニスさんが座った所で、オルバートさんが話を切り出す。

「で、二人は何のために俺たちの所に来たんだ?」
「あら、用が無ければ旧友に会いに来ちゃいけない、とでも言いたげね?」
「そういうわけじゃないけど、今はちょっとまずいんだよね」

 ディディさんの言葉に、クラニスさんは困ったように答える。
 さっきの第六支部の騎士の事もだけど、やっぱり何か問題が起きているような感じだ。

「禁忌の魔力が関係しているのか?」

 父様の一言に、オルバートさんとクラニスさんは仲良く驚いた表情になる。

「なんで……いや、そういえばメルが居たな」
「ちょっとオルバート、ボクの事を忘れてたのー?」

 メルはいつの間にか食べていたチョコレートを、口の周りに付けたままでむぅーと膨れた。
 オルバートさんはギルドのリーダーだった人だから、メルの魔法の事も把握してるんだろう。

「察しているなら話は早い。実は、この国で面倒な事件が起きていてな。ある派閥が禁忌の魔力に関わっている可能性があるんだ」
「分かってるのなら、なんで取り押さえないのよ」
「まだ確実な証拠が出てないんだよ。古くからある派閥ってのも厄介なもんでね」

 オルバートさんとクラニスさんは、なんとも言えないような難しそうな表情だ。
 やはり大きな国でたくさんの人が集まる以上、問題も大きくなりやすいんだろうか。

「じゃあ、あの第六支部の連中もそっち側ってわけ?」
「そ。第五支部までの騎士たちは、竜王国らしい純粋な実力主義の精鋭たちだけど、第六は血統主義な連中が集まってる。騎士団の中では不名誉の代名詞みたいなもんだよ」
「この国にも、血統主義が少なからず居るのか」
「ほとんどが先祖の威光を盾にした役立たず共さ。だが、完全に切るわけにもいかない理由もあってな」

 オルバートさんはそこまで言うと、一旦言葉を区切ってから何かを考えて、再び話しを始めた。

「いや、これはこの国の問題だ、お前らを巻き込むわけにはいかん。禁忌の魔力の事で来てくれたのなら、その件に関しては何とかするから気にしないでくれ」
「あら、水臭い事を言うのね」
「そりゃ、二人がいてくれたら俺たちも楽だよ? でも俺たちはこの国の騎士団長と副団長だから、これは俺たちの仕事だ。それにそっちには、こつぶちゃん達だっているじゃないか」
「子どもたちを危険な目に合わせるつもりは無いさ。ただ、守り人として気になる事もある。禁忌の魔力が、精霊たちに悪影響を与える可能性もあるだろう? それに半精霊もいるようだが」
「半精霊?」
「ありゃ、その子はいないの? じゃー、この国のどっかで隠れ住んでるだけなのかな」

 メルは前足を口に当てて、んー、と考えながら言った。
 でも半精霊の方はともかく、禁忌の魔力の事はオルバートさんたちも手掛かりを掴んでいたようだ。
 それに父様の言うように、人間の問題では済まずに精霊たちにまで悪い影響が出てしまうようだったら、放っておくわけにはいかない。

「俺たちは引き続き調査を続けるが……わざわざすまなかったな、あとはこっちでどうにか……」
「オルバート、嘘ついてるねー?」

 オルバートさんの言葉が終わる前に、メルがじとっとした目つきになって一言入れる。
 こういう時のメルは、何故だかやたらと鋭いんだよな。

「本当は僕たちに手を貸してほしいんでしょ? シャルムがいれば精霊たちも力を貸してくれるし、ディディの強さも相変わらずの折り紙付きなんだから」

 メルの言うとおり、精霊たちは基本的には人間社会に無関心だが、関係者に守り人がいれば、そのように助けになってくれる。
 この立派な体格で騎士の山を積み上げたディディさんの強さは、言わずもがなだ。

「いや、だがな」
「嘘つく時に一瞬下を見る癖、直ってないよー」

 メルの指摘に、オルバートさんは「あっ」と呟き、バツが悪そうに黙ってしまった。
 どうやら彼は、嘘をつくのが苦手なタイプのようだ。

「馬鹿ねぇ、オルバートったら。それなら依頼って事にしちゃえばいいじゃない」
「依頼?」
「俺たちのカードが何色か、忘れたのか?」

 父様たちの冒険者カードは、黒。
 つまり、危険な依頼や国家機関からの依頼を受けることが出来る、熟練者の証だ。
 オルバートさんとクラニスさんは顔を見合わせ、納得したように仲良く頷いた。

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