あれから二日後、エルカイムの王都に着いていた僕たちは、さっそく拠点となる宿をとる。
 その後、父様たちの旧友の騎士団長に会うつもりだったんだけど……。

「お前らのような者どもに、団長がお会いになるわけないだろ。帰れ帰れ」

 この詰所の隊長と思われる騎士がこの調子で、団長に会わせてくれないのだ。

「ちょっと、アタシたちオルバートとクラニスのギルド仲間だったんだけど?」
「フン、騙されんぞ。団長の旧友がこんな連中のわけがない。さっさと消えろ、それとも牢にぶちこまれたいか」

 騎士たちはディディさんの言葉を全く信用していない……それどころか、馬鹿にするような言い方と態度だ。

「まあまあ隊長、ここはゆっくり取り調べをしてもいいんじゃないですか? 尋問のし甲斐がありそうな奴も居る事ですし」

 奥から別の騎士が、ねっとりとした言い方で近づいてきた。
 目つきが気持ち悪い彼は、無遠慮に父様に触れようとして……。

「ってぇ!!」

 メルに思いっきり噛みつかれた。
 勢いとはいえ、彼の指を噛んだメルも気持ち悪かったのか、ぺっぺっと唾を吐いている。

「てめぇ、ふざけやがって!!」

 メルに噛みつかれた騎士が、父様に向かって殴りかかってくる。
 しかし彼の拳が父様に当たるよりも早く、父様の右足が彼のボディに直撃していた。

「ぐ、あぁ……」
「末端とはいえ、これで騎士とはな」
「そうね、オルバートにしっかり文句を言ってやらなきゃ」

 父様とディディさんがそう言うと、残っていた騎士たちが一斉に襲い掛かってくる。
 しかし父様は拳と蹴りで容赦なくボコボコにしているし、ディディさんは得意な武器と思われる槌で、数人単位を吹き飛ばしている。
 メルに至っては騎士たちの頭上をぴょんぴょんと飛び回り、完全に馬鹿にしている感じだ。

 僕は公爵家を出た時の経験を生かして、自分が捕まらないように魔法の防御壁を張っている。
 ヴァニスは僕の隣で、いつでも秘剣が使えるように待機してくれていた。
 しばらくして騎士の山が出来上がると、新人っぽい人が奥の方で腰を抜かしているのが見える。

「そこのあんた」
「は、はひ!?」
「今すぐオルバートに伝えてきなさい。ディディとシャルムが来たってね」
「は、は、はいぃ!!」

 半分逃げだすような勢いで出ていった新人さんを見送ると、いつの間にか集まっていた町の人達の視線に気づく。
 コレは結構な騒ぎになってしまったのでは、と思ったけれど、何故か町の人の中には、喜んでいるような人もいる。
 耳をすませてみると、驚きの声に混ざって「スカッとした」とか「ざまあみろ」なんて言葉も聞こえる……。
 もしかして、ここの騎士たちは町での評判も最悪だったんだろうか。

 僕たちは詰所にあった椅子に座り、メルは騎士の山のてっぺんでくるくると回っている。
 そんな状態でしばらく待っていると、大柄な騎士の男性が現れた。
 短い茶髪に赤い目で、他の騎士より身なりが良いように見えるから、この人がオルバートさんだろうか。

「ディディ、シャルム……うちの配下が無礼を働いた事は謝るが、ここまでしなくとも……」
「あら、それは逆でしょ? 下っ端でも騎士である連中がアタシらみたいな冒険者、しかもこれだけの人数がいながら、たった二人に負けてるって事実の方が問題じゃない」
「それはそうだが……」
「オルバート、アンタちゃんと部下の事見てんの? ここの連中、町の子たちからの評判も良くないみたいだし、アタシらが来た時だけってわけじゃないでしょ」
「……」

 ディディさんの抗議に、オルバートさんは黙ってしまった。
 だけど少し考えたようにしてから、再び口を開く。

「二人とも……いや、その子たちもか。とりあえず、俺の執務室に来てくれるか。話したい事がある」
「面倒な事に巻き込まれそうなよかーん」

 メルの一言はもっともだが、僕たちとしても伝えなければいけない事がある。
 積み上げられた騎士の山は新人さんに丸投げして、僕たちはオルバートさんについて行った。


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