いち早く自分の分の昼食を平らげたメルは、お気に入りのクッションの上ですやすやと眠っていた。
そして僕たちも昼食をとりながら、メルがさっき言ったことを思い返す。
半精霊と、禁忌の魔力。
半精霊というのは、人間と精霊の間に生まれた、所謂ハーフの事だ。
しかし生殖の必要と感覚のない精霊が、人間に恋愛的な意味での好意を持つことは非常に稀だ。
それでも時々、人間に恋をする精霊が現れるらしいのだが、やはり精霊には子孫を残すという感覚が無い為、その多くは子どもを作るまでには至らない。
だけど本当に稀に、人間との間に子どもを作る精霊がいる。
精霊は血の代わりの魔力を繭に与えるから、生まれた子は人間の姿でありながら、精霊の魔力を持つという半精霊になるのだ。
そして精霊を片親として持つ子に、人権はない……半分人間でも半分精霊である以上は、下手に人の法に当てはめるわけにはいかないからだ。
なのでほとんどの半精霊は、人里離れた場所で静かに暮らすようだが、人権が無い事を逆手にとって彼らを悪用しようとする輩もいる。
中には実験動物のように扱われたり、性欲処理の奴隷として売られた子もいるのだと聞いた……。
世界中のどの国でも人身売買は禁止されているのに、彼らは法に守られる事は無いからと、非道な行いを正当化されてしまうのだ。
しかし半精霊は稀な存在であるから、珍しい事ではあるけど決しておかしい事ではない。
問題は、禁忌のほうだ。
禁忌の魔力というのは本来、この世界に存在していないものか、あるいは人道的に発生させてはならないものの事を指す。
現時点で考えられるのは、何らかの方法で異世界の存在を呼び出したという場合。
もう一つは、人間や精霊の複数人の魔力を強制的に混ぜ合わせ、新しい魔力の元を作り出した場合だ。
前者であるならば、呼び出されたものがどのような存在なのかによって、その後の対処法が変わる。
後者であった場合は、この時点で既に犠牲者が出てしまっているだろう……メルが感知した以上、明らかに異質なものが存在している事になる。
産繭に血を入れるのとはわけが違うレベルの何かが、何らかの目的と方法で生まれてしまっているのだから……。
静かに街道を進む馬車の窓から外を見ていたら、冷たそうな雨が降り出した。
拭いきれない不安と低くなっていく気温に、思わず身を震わせる。
「シエル、寒いのか?」
「うん、少し……それに、ちょっと嫌な感じもするんだ」
「あんな事を聞いた後だしな」
さっきのメルの話……半精霊と禁忌の事は、やっぱりヴァニスも気になっているみたいだ。
ヴァニスはすっと立ち上がると、寝室から僕のブランケットを持ってきてくれた。
「ありがとう」
「ああ……なあ、シエル」
「なに?」
「もしもこの国で何かあったとしても……みんながいるし、俺も出来る限りのことはするから。だから、その……そんなに心配しなくても、大丈夫って言うか……」
ヴァニスは少し恥ずかしそうに、だけど僕を不安にさせないようにと、言葉を選んで話してくれている。
彼のこのちょっとだけ不器用な優しさに、僕はいつも甘えていたんだっけ。
「ヴァニス……僕、もうちょっと甘えていたいかも」
「え?」
「僕の事、守ってくれる?」
そう言ってヴァニスに寄り掛かると、思っていたより高めの彼の体温を感じる。
ヴァニスは一瞬驚いたみたいだけど、そのまま僕を抱きしめるようにして、笑顔で言った。
「ああ、任せとけ」
そして僕たちも昼食をとりながら、メルがさっき言ったことを思い返す。
半精霊と、禁忌の魔力。
半精霊というのは、人間と精霊の間に生まれた、所謂ハーフの事だ。
しかし生殖の必要と感覚のない精霊が、人間に恋愛的な意味での好意を持つことは非常に稀だ。
それでも時々、人間に恋をする精霊が現れるらしいのだが、やはり精霊には子孫を残すという感覚が無い為、その多くは子どもを作るまでには至らない。
だけど本当に稀に、人間との間に子どもを作る精霊がいる。
精霊は血の代わりの魔力を繭に与えるから、生まれた子は人間の姿でありながら、精霊の魔力を持つという半精霊になるのだ。
そして精霊を片親として持つ子に、人権はない……半分人間でも半分精霊である以上は、下手に人の法に当てはめるわけにはいかないからだ。
なのでほとんどの半精霊は、人里離れた場所で静かに暮らすようだが、人権が無い事を逆手にとって彼らを悪用しようとする輩もいる。
中には実験動物のように扱われたり、性欲処理の奴隷として売られた子もいるのだと聞いた……。
世界中のどの国でも人身売買は禁止されているのに、彼らは法に守られる事は無いからと、非道な行いを正当化されてしまうのだ。
しかし半精霊は稀な存在であるから、珍しい事ではあるけど決しておかしい事ではない。
問題は、禁忌のほうだ。
禁忌の魔力というのは本来、この世界に存在していないものか、あるいは人道的に発生させてはならないものの事を指す。
現時点で考えられるのは、何らかの方法で異世界の存在を呼び出したという場合。
もう一つは、人間や精霊の複数人の魔力を強制的に混ぜ合わせ、新しい魔力の元を作り出した場合だ。
前者であるならば、呼び出されたものがどのような存在なのかによって、その後の対処法が変わる。
後者であった場合は、この時点で既に犠牲者が出てしまっているだろう……メルが感知した以上、明らかに異質なものが存在している事になる。
産繭に血を入れるのとはわけが違うレベルの何かが、何らかの目的と方法で生まれてしまっているのだから……。
静かに街道を進む馬車の窓から外を見ていたら、冷たそうな雨が降り出した。
拭いきれない不安と低くなっていく気温に、思わず身を震わせる。
「シエル、寒いのか?」
「うん、少し……それに、ちょっと嫌な感じもするんだ」
「あんな事を聞いた後だしな」
さっきのメルの話……半精霊と禁忌の事は、やっぱりヴァニスも気になっているみたいだ。
ヴァニスはすっと立ち上がると、寝室から僕のブランケットを持ってきてくれた。
「ありがとう」
「ああ……なあ、シエル」
「なに?」
「もしもこの国で何かあったとしても……みんながいるし、俺も出来る限りのことはするから。だから、その……そんなに心配しなくても、大丈夫って言うか……」
ヴァニスは少し恥ずかしそうに、だけど僕を不安にさせないようにと、言葉を選んで話してくれている。
彼のこのちょっとだけ不器用な優しさに、僕はいつも甘えていたんだっけ。
「ヴァニス……僕、もうちょっと甘えていたいかも」
「え?」
「僕の事、守ってくれる?」
そう言ってヴァニスに寄り掛かると、思っていたより高めの彼の体温を感じる。
ヴァニスは一瞬驚いたみたいだけど、そのまま僕を抱きしめるようにして、笑顔で言った。
「ああ、任せとけ」
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