朝からよく晴れていた次の日、僕たちは朝食をとってから、それぞれの目的地へ向かう。
 都の外れを流れる大河は、町の内外の境界線にもなっているのだそうだ。
 しかし、川自体は大きいけれど、釣りや川遊びには向いてない地形の為に、物流業者の建物が数か所にあるだけ人気のない寂しい所だった。

「フォドラニス、居るんでしょー?」

 メルが川を覗き込んで声をかけると、川の真ん中あたりから水の柱が立ち、大きな魚の精霊が現れる。
 そして、メルに向かって水鉄砲のような物を撃ってきた。

「柴瑛、魔法使って!!」
「え?」
「早く!!」
「は、はい!」

 メルの指示で、柴瑛君は水鉄砲を相殺するかのように、雷の魔法を放つ。
 これは属性の相性が最悪だったな……相手にとって。
 水鉄砲を伝っていった雷は、魚の精霊に容赦なく直撃した。
 フォドラニスと思われる精霊と水の柱は、そのまま重力に逆らえずに川の中に落ちていき、やがて水面にさっきの魚がぷかりと浮かぶ。
 まさか、勢い余って焼き魚にしちゃったんじゃ。

「まったく、いきなり攻撃してくるなんて、相変わらずの神経してるよね」
「……メル!! お前なんて事しやがる!! 危うく美味しくなるところだっただろ!!」

 あ、よかった生きてた。
 フォドラニスは怒り心頭の表情で、水面から顔だけ出して抗議してきた。
 しかしメルも負けてはおらず、フン、とふんぞり返って言い返す。

「フォドラニスが、僕の可愛い毛並みを狙うからいけないんですー」
「だってお前が水でぺしゃってなるの、面白いじゃん」
「面白さで人をビショビショにしないでよね」

 メルは人ではないけどね、と心の中でツッコミつつも、確かにそんな理由ならメルが怒るのも無理は無いなと納得する。
 フォドラニスはしばらくメルと睨みあっていたが、ようやく僕たちのほうに気付いた。

「ん? シャルムは分かるけど、そっちのちっこいのは息子か? それに半精霊も……って、お前が雷撃ったのか!! 人を焼き魚にする気かよ!!」
「す、すみません……えと、美味しく頂きますので」
「そういう意味じゃねぇ!!」

 フォドラニスも人じゃないけどね、とまたまた心の中でツッコミをする。
 柴瑛君もなかなか言う方……というより、あれは素っぽいな。なにこの子、天然なの?
 さすがに収拾がつかなくなってきたから、父様が間に入る。

「悪いね、フォドラニス。でも、メルが嫌がる事をする君にも非はあるよ?」
「むう……」

 フォドラニスはそのまま黙り込んでしまった。
 確かに、いきなりメルに向かって水をかけてきたりしなければ、フォドラニスだって感電しなかったんだしね。
 いまいち腑に落ちていないフォドラニスを見ながら、父様は彼に癒しの魔法をかけつつ、要件を話しだした。

「今日は君に、聞きたい事があって来たんだ」
「なんだ?」
「今、この都で問題になっている血統主義の連中の事を、何か知っているかい?」
「あー……なんか聞いた事はあるが、よくは知らん。俺はエルシオが還ってからは、人間と関わってないんだ。ただ……」

 フォドラニスは心当たりがあるのか、若干言葉を濁らせた。

「この川の近くに人間があまり来ない反面、悪巧みをする連中が話し合いをする事があるんだ。その中に居たかもな」
「その人間たちの、人相や内容は覚えているかい?」
「っていっても、たいてい夜ばっかだからなあ、顔は分からん。内容は確か……」

 フォドラニスの話によると、川の近くでは不良同士の喧嘩に既婚者同士の不倫、商会と顧客の賄賂の受け渡しなど、何かと色々あるという。
 その中に一つ、該当する可能性のある話があった……大通りの計画がどうこう、と言う話を聞いたのだと。

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