フォドラニスの話をまとめると、こうだ。
 一週間ほど前に、この川の近くで三、四人の人影が見えて、何やら話をしていた。
 興味本位で近づくと「大通りに種を植えた」「一泡吹かせてやる」「封印できるのは我々だけ」という会話が聞こえたそうだ。
 フォドラニスもその時は何のことか分からなかったけど、僕たちから大通りの騒ぎの事を聞いたら、それの事か、と納得したようだ。

「その種ってのが禁忌の魔力って事か。しっかし、人間のやる事は意味が分かんねーな」
「今回に関しては、意味の分かる人間もそう多くないよ」

 呆れ顔のフォドラニスに、同じように呆れながら父様が返答する。
 確かに人間でも普通の感覚の人なら、禁忌の魔力の塊を大通りに出現させようなんて、そんな馬鹿な事は思いつかないだろう。

「っても、半精霊がいるならそんなもん一撃だろ。この俺を沈めたくらいなんだしな」
「フォドラニスは、油断しすぎなんじゃないのー?」
「んだと」

 メルの余計な一言で、また二人の睨みあいになりかけたが、空気を読んだ父様がさり気なくメルをずらした。

「フォドラニス、情報ありがとう。そろそろ行くよ」
「おー、じゃーな」

 そう言うと、フォドラニスは川の中にぽちゃんと沈み、奥の方へと泳いでいく。
 僕たちも宿に戻ろうと、町に向かって歩き出した時。

「あっ!! ちくしょう!!」
「ばーか、油断しすぎだぜ!!」

 僕たちが後ろを向いた瞬間に、フォドラニスは水面に飛び上がり、メルに向かって思いっきり水をかけた。
 僕と父様にはかからなかったけど、向こう側に居た柴瑛君はしっかり巻き込まれて、可哀想にもずぶ濡れだ。
 そしてお望み通りに水でぺしゃっとなったメルを見て、フォドラニスはご機嫌で上流の方へと行ってしまう。

「柴瑛!! あいつ川ごと感電させて!!」
「そ、それはさすがに……」

 怒り心頭のメルにとんでもない事を言われ、さすがの柴瑛君も困りつつ断っている。

「こらメル、そんな事をしたら他の生き物まで死んじゃうでしょ」
「むぅー!!」

 いつもの倍近く頬を膨らませているメルを、父様がしぼりながらタオルで拭いている。
 柴瑛君も髪と服をしぼっていたので、魔法のポーチからタオルを取り出した。

「柴瑛君、これ使って」
「あっ、ありがとうございます」
「戻ったら、二人ともお風呂だね」

 父様は、ふわふわには程遠いしょんぼり毛並みのメルを抱え、困ったように笑う。
 メルは父様の腕の中で絶賛ご立腹中だが、それでもしっかり父様にくっついてるあたりはさすがだ。



 宿に戻ると、ヴァニスとディディさんはすでに戻っていた。
 ずぶ濡れの柴瑛君とボリュームの無いメルを見て驚いていたが、なんとなく事態は察してくれたようだ。
 二人がお風呂に入っている間に、僕たちは互いに分かった事を話し合う。

「聞き込みの方はどうでしたか?」
「昨日までは騎士たちの方でも、目撃者は居ても人物の特定はできなかったみたいでね。でも、やっと怪しい人物を見たっていう人を見つけたわ」
「その人には団長の所に行ってもらったけど……証言からして、こないだボコされた詰所の奴っぽいぜ」

 あの詰所の騎士たちということは、やっぱり血統主義の一派が絡んでいた、ということだろう。

「そっちはどうだったのかしら?」
「フォドラニスが、怪しい会話を聞いてたんです。内容的に、あの塊の事で間違いなさそうなんですが……」
「問題は、まだ目的が分からないままなんだよね。アレを利用して上層部に何かの要求をのませようとした、あるいは自作自演で自分たちの株を上げようとした、くらいの予想はできるけど……」

 そこまで言って、父様は言葉を濁らせる。
 確かに犯人の手掛かりは得られたけれど、奴らの目的そのものは謎のままだ。

「でも、そうなる前に柴瑛が倒しちまったんだし、連中にとっては予想外の事態ってとこでしょうね」

 ヴァニスの言うとおり、柴瑛君が居なかったら今頃どうなっていたことだろう。
 連中の目的が何であれ、下手をしたら市民の人達が、もっと酷い被害にあっていたかもしれないんだ。
 そんな今回の功労者とも言える柴瑛君はと言うと……。

「もうちょっと右ー」
「ここですか?」
「うーん、そこそこ、いい感じー」

 メルを洗ってくれつつ、ついでにマッサージまでやらされているようだ。
 いくらあの子が真面目なお手伝いさんと言っても、さすがにメルは柴瑛君をいいように使いすぎだから、あとでちゃんと注意しないとな。
 父様も僕と同じように思っていたようで、「そろそろ禁止令を出すか」と呟いていた。

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