散歩のつもりが、出て早々で妙な出来事に巻き込まれてしまったので、宿のロビーで時間を潰す事にする。
 さすがにロビーの中までは、さっきのような悪酔いマッチョは居ないだろうし。
 そして、さっきの事や今日の夕食の事、この町の事など色々と話しているうちに、そこそこいい時間になったので部屋へと戻る。
 しかし、僕たちが借りた部屋からは、何やら賑やかな声が聞こえてきた。

「まだ盛り上がってるのかな?」
「っても、そろそろ寝てもいいくらいの時間だぞ?」

 遠慮して廊下で徹夜はしたくないので、軽くノックをしてから部屋のドアを開ける。
 中からはやはり賑やかな父様たちの声が聞こえるし、それになんだかお酒臭いような……。

「もう恋なんてしなーい!」
「しなくていいよー、ボクがいるじゃーん」
「メルモフモフー、たまらーん」
「もっと褒めていいよー」
「気のすむまで飲んじゃってー、アタシのおごりよ!」

 部屋の中にはすっかりできあがった大人たちが、かなりの量のお酒を空にしていた。
 チラッと見ただけでも、ワイン、ウィスキー、ブランデー、ウォッカの瓶が転がっている。

「ありゃー? もうデート終わったにょー?」

 微妙に舌が回っていないメルが、僕たちに気付いた。

「なんでこうなったの」
「酒はのめども、にょまれるなー」

 僕の問いはスルーして、酔っぱらって上機嫌のメルは机の上でくるくると回り出したが、これは完全に三人とも酒にのまれてるだろう。
 メルはともかく、父様はお酒なんてめったに飲まないほうなのに。

「父様、大丈夫?」
「んー? シエルー?」
「そうだよ」

 僕が返事をするや否や、父様はがばっと僕に抱き着いてきた。

「と、父様?」
「あははー、俺の可愛いシエルだー。よしよし、いい子だねー」

 父様はお酒が入るとテンションが上がるタイプなのだろうか。
 抱き着いたままの体勢で、僕の頭を撫でまくっている。

「父様、もう寝たほうがいいんじゃない?」
「えー? なんでー?」
「だって、すごく酔ってるよね?」
「酔ってないもーん」

 父様はプクーとふくれて否定するが、間違いなく酔ってると思う。
 だって素面の父様はここまで子どもっぽい言動はしない……少なくとも「もーん」とは言わない。
 いや、子どもっぽいというよりは、メルっぽくなってる、の方が正しいかもしれない。
 なんというか、メルを二人分相手にしている感じがする。

「やっぱり休んだほうがいいよ。ベッドに行こう?」
「メルはー?」
「今抱っこしてるよ」
「ありゃー? いつの間にー?」

 いつの間に、と言っているが、さっき回りすぎて転がってきたメルを、父様はしっかりキャッチしていたのだ。
 ちゃっかり父様に抱っこされているメルは、すやすやと小さな寝息を立てている。
 おぼつかない足取りの父様をベッドに連れて行き、毛布を用意している間に二人とも眠ってしまった。
 二人に毛布をかけてから、宴会場状態だった部屋に行くと……。

「ぐっ……くぅ……」
「ほらほらー、アタシ一人運べない腕力じゃ、シエルちゃんを守れないわよー?」

 なんとかディディさんを運ぼうとしているヴァニスと、運ばれつつも楽しそうなディディさんの姿が。

「えと……ヴァニス、手伝うよ?」
「い、いや、大丈夫だ……こっちの毛布も出してくれ」
「う、うん」

 クローゼットの中からもう一枚の毛布を出し、なんとかベッドに運ばれたディディさんにかける。
 お酒のせいか、ディディさんも寝つきが良く、ベッドに来るまでに眠ってしまったようだ。

「……片づけは、明日でいいよな」
「そうだね……」

 さすがにいろんな意味で疲れたから、宴会場の片付けまでやる気力がない。
 僕たちも自分の毛布を出し、ぐったりとベッドにもぐりこんだ。

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