僕たちは食材などを買いそろえてから筋肉街を出発し、魔動馬車で次の町を目指していた。
 僕はキッチンで昼食の準備をし、隣ではヴァニスが手伝ってくれている。
 寝室には、二日酔いで完全にダウンしている父様、そして……。

「ねー、ボクに運転やらせてよー」
「ダメよ、メルちゃんの運転がヤバい事は知ってるもの」
「むぅー」

 メルからハンドルを守ってくれているディディさんが、僕たちの新たな旅仲間となったのだ。
 なんでも、冒険者として旅をする事にそろそろ疲れてきたから、どこかの町を拠点に仕事をしたいという事と、守り人の村の近くの町なら、僕たちに気軽に会えるんじゃないか、という理由で一緒に向かう事にしたのだ。

 ディディさんが運転を死守してくれたおかげでメルは諦めて、頬を膨らませながら寝室の方に向かっていた。
 あれは多少いじけて、父様のベッドにもぐりこみに行ったんだろうな。

「次の町に着くのは、ちょうど明日の夜になりそうね」
「ちょうど、ですか?」
「ええ、この先にあるフォルフロナっていう町は、夜市が有名なのよ」

 夜市があるのか、なんだか楽しそう。
 やっぱり昼間にやってる市場とは、雰囲気が違ったりするのかな?
 ……あ、そうだ。その前に大事な事を聞かないと。
 父様はダウンしてるし、現役の冒険者のディディさんに聞けば分かるよね。

「あの、ディディさん。冒険者って、僕たちでもなれるんですか?」
「え? そりゃなる事は出来るわよ? 冒険者ってのは、基本的には来るもの拒まずの自由業だし……でもどうして? なりたいの?」
「なりたい、とはちょっと違うんですが……僕たち、父様が昔稼いだお金で生活してたし、路銀もそこから出してたんです。だから、自分たちでもお金を稼ぐ方法があればと思って」

 僕とヴァニスは、ラドキアを出た後にお金の事を相談していた。
 僕たちも働ける歳ではあるんだし、全く稼ぎもしないで父様に甘えてばかりなのは、さすがに気が引ける。
 冒険者なら自由がきくし、旅をしながらでも仕事が出来ると聞いているから、と話し合っていたのだが、どうやってなるのかとかどんな仕事があるとか、具体的な事がいまいち分からなかったのだ。

「なるほどね……でも、あんまり危険な仕事は受けないほうがいいわ。ま、最初は素材集めとか荷物運びとか、そういうのが主になるけど。あと、市場で露店を出すとかね」
「え? 露店が出せるんですか?」
「ええ、冒険者用の場所に大きなスペースはもらえないけど、一時的な出店なんだし、十分よ。余った素材や合わなくなった装備を売ったり、中には手作りの装飾や料理を作ってる子たちもいるわね」

 露店を出せるというのは、なんだか楽しそうだな。
 聞いた感じでは、違法にならない物なら、何でも売っていい感じなのかな?

「露店といえば昔シャルムちゃんが、お菓子を作って売ってくれた事があったわねえ」
「お菓子?」
「ええ、リーダーが伝票を間違えて、小麦粉がヤバいくらいに届いた事があったのよ。すぐには使いきれないし、魔法のポーチに入れてもパンパンになっちゃうから、シャルムちゃんが大量のメルちゃん型のクッキーを作ってくれて、それを露店で売っていたの。見た目も可愛かったから次々に売れちゃって、大成功だったのよ。メルちゃん自身が売り子になってくれたし」

 メル型クッキーは、父様がおやつに時々作ってくれたお菓子だ。
 顔や手足はプレーンで、毛並みのとこはチョコ味になってて、サクサクで美味しかったな。
 メルには、「ボクを食べたから、良い事あるよー」なんて冗談を言われたりもしたっけ。

「シエルちゃん、シャルムちゃんに教えてもらって作ってみたら?」
「えっ? お菓子は難しそうですが……僕、料理も簡単なのしかできないし」
「大丈夫よ、アタシみたいに丸焼きしか作れないわけじゃないんだから」

 それはそれで逆にすごい気もするけれど。
 でも、お菓子作りは難しそうだけど、楽しそうでもあるよね……父様が元気になったら、聞いてみよう。


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