「あー、おなかすいた!」

 ちまちまとキッシュを食べていたら、フォトーさんが席へとやってきた……本人も言っているとおり、お腹が空いたからだろう。
 フォトーさんは席に着くとすぐにメニューを見て、早々に注文を始める。

「んー、ソーダフロート、デミグラスハンバーグ、パングラタン、マルゲリータ、フライドポテト、チキンナゲット、チーズウインナー、チョコレートパフェ、フォンダンショコラ、ミルクレープ、チェリーパイ、キャラメルマキアート」
「かしこまりました」

 フォトーさんの呪文のような大量注文に、従者である風竜の人は手慣れた様子でメモを取っている。
 まさか、普段からこんなに食べているんだろうか?

「あれ、カナデ、それだけ? パーティーの日は食材がむっちゃ用意されるから、もっと食べて大丈夫だぞ? それとも前菜か?」
「あ、いえ……とりあえず、軽く何か欲しかっただけです」
「そっか。ま、緊張してたみたいだし、しょうがないか」

 フォトーさんは交流しつつ、俺の様子も見てくれていたんだろうか。
 あのへろへろ状態を見られていたと思うと、ちょっと恥ずかしいな……。
 そんな俺たちの様子を見ていたイグニ様は、ワインを一口飲み、フォトーさんに話しかける。

「エアラはまだ話しているのか?」
「そうっすねー、気候の話になると、なかなか終わらないんですよ。俺は腹の虫が大暴れしだしたんで、とんずらしてきました」
「はは、フォトーは相変わらずだな」

 そう言って、イグニ様は少し困ったように笑った。
 どうやらフォトーさんが風竜王様を置いてご飯を食べに来るのは、いつもの事のようだ。
 そして三人で話をしているうちに、フォトーさんの頼んだ料理が運ばれてくる。
 一人で平らげるつもりの量も凄いが、それ以上にフォトーさんは、本当に美味しそうに食べる人なんだな。
 こんなに嬉しそうに食べているところを見たら、多少のマナーなんてどうでもよくなってしまう。

「あの、フォトーさんはいつもこんなに食べるんですか?」
「ん? 今日はいつもよりちょっと多いくらいかな、けっこう腹減ってるから。なんで?」
「いえ、純粋にすごいなと思って」
「へへ、そうか? でも、食べるのと寝るのは本当に大事な事だからな。カナデもちゃんと食べて寝て、大きくなるんだぞ」

 フォトーさんは嬉しそうに照れつつも、俺の小ささを心配してくれている……のか?
 でも実際問題、俺の身長に伸びしろがあるなら、ぜひ頑張りたいところだ。

「背が高くなる食べ物って、あるんでしょうか」
「そだなー、有名なのは牛乳だけど、小魚とか豆とか野菜もいいんじゃないか? 要は栄養をちゃんと摂ればいいんだから」
「ふむふむ」
「あとは、ちゃんと休んだり鍛えたりしないといけないぞ。ただ栄養を取るだけじゃ、縦じゃなく横に伸びるぞー」

 悪戯っぽく笑うフォトーさんの言葉に、内心ギクッとした。
 旅をしていた時は歩き回るのが普通だったし、路銀稼ぎに荷運びの仕事もしたし、必要な時は戦ったりもしていた。
 だけど平和な火竜宮に来てからは、温泉に入るか読書をするかコロコロしているか、という事が多かったから、かなりなまっている気がする。
 ハンバーグの半分を丸のみしているフォトーさんを横目に、自分の二の腕をつまんでみる……やはりプニプニだ。

「カナデ、何を可愛い事をしているんだ」
「かわ……いえ、やっぱり筋肉が落ちているみたいで」
「筋トレしたいなら、グラノさんに相談するといいぞー」

 いつの間にか、マルゲリータに手を出しているフォトーさんは言った……って、さっきのハンバーグ、もう食べたのかこの人。
 でも確かに、グラノさんなら体の鍛え方をいろいろ知っているだろう。現にたくさんのトレーニング法を考案してるって話だもんな。
 筋肉隆々とまではいかなくとも、せめてプニプニからは脱却したい……もうちょっと落ち着いたら、グラノさんに相談してみよう。