次の日、僕たちは海の遊びを存分に楽しんだ。
浅瀬で泳いだり、砂の城を作ったり、綺麗な貝殻を探したり……途中でヴァニスとディディさんが、泳ぎの競争を始めたり、父様が食べれる魚を捕ったりもしていたけれど。
海水に入りたくないメルに至っては、パラソルの下でサングラスをかけながら、謎のドヤ顔で僕たちの様子を見守っていた。
そして、その日も海の幸たっぷりの夕食を堪能し、すっかり遊び疲れてぐっすり眠った翌日。
「……うぅう……」
「シエル、大丈夫か? カニみたいになってるぞ」
「カニ……」
ヴァニスに心配されつつも失礼な事を言われている僕は、絶賛筋肉痛だ。
まともに泳いだのなんて、小さい頃に川遊びに連れて行ってもらった時以来……その時だって、水の精霊に泳ぎやすいようにしてもらってたんだよな。
海に入ってものすごく久しぶりに泳いだ影響なのだろう、普段使わない筋肉を使ったおかげで、体が悲鳴を上げている。
運動不足な僕と違って、トレーニングを日課にしている父様やヴァニス、朝早くから鍛練している柴瑛君、息をするように筋トレをしているディディさんは、少しくらい海で泳いだところで何ともないようだ……。
「セラン王国に向けて、今から出発の予定だけど……シエル、行けるかい?」
「だ、大丈夫……」
体をギコギコさせながら、父様に返事をする。
筋肉痛で辛いとは言っても、精神的には普通に元気で、風邪をひいた時のようなしんどさはない。
「しょうがないなあ、今日の僕のブラッシングは、シエルを指名してあげよう」
若干呆れたような口調でありつつも、ちょっと得意げに言うメル。
そして、朝市に買い出しに行ってくれていた、ディディさんと柴瑛君が戻ってきたところで、魔動馬車を出して出発となった。
今日は柴瑛君の運転練習を兼ねての走行で、ディディさんが補助についてくれている。
父様はお昼ご飯の下準備をしていて、ヴァニスはプランターの野菜のチェックに行っていた。
そして僕は、窓を開けた寝室で楽な体勢になりながら、メルをモフりつつブラッシング……と言っても、毎日誰かにブラッシングをやってもらってるからだろう、メルの毛はそこまでたくさん抜ける事はない。
だから数日に一回でも十分なんだけど、これはメルが誰かにくっついていたいという理由で、口実にして毎日してもらってるんだろうな。
「……あ、そうだ。ねえメル、今向かってるセラン王国って、どんなところなの?」
「んー、そうだなあ……とりあえず、めんどくさいとこ」
「めんどくさい?」
「あの国、一夫多妻なんだよ。だから旅人だろうが相手がいようが、言い寄ってくる奴らがむっちゃ居るよ」
「ええ……でも、普通に断ればいいよね?」
「そうだねえ。ただ、王貴族なんかはハーレム作ってたりするし、一般人でもしつこい奴は多いよ。ま、あんまり酷かったら、拳で返事してやればいいよ」
それはつまり……口で言っても分からないような相手なら、殴って拒否しろって事?
父様なら相手が吹っ飛ぶかもしれないけど、僕のパンチじゃ軽く流されて終わりなんじゃ……。
魔法を使えば吹っ飛ばすくらいは出来そうだけど、勢い余って大惨事になったらまずいしなあ。
「まー、心配なら、一人で行動しない方がいいよ。シャルムやヴァニス、ディディなら殴り飛ばすくらい簡単だろうし、柴瑛の魔法で姿を隠すとか……あ、それともボクが、蹄キックで撃退してあげようかー?」
楽しそうに笑うメルだが、言っている事はとても物騒だ。
でも、メルの言うとおり、一人で行動するのは止めておいた方がよさそうだな。
せっかくみんなで楽しく旅をしているのに、厄介事に巻き込まれるのは普通に嫌だし。
そう思いながら、筋肉痛に苦しむ一日を終え、よく眠って体もだいぶ楽になった翌日。
その日もとてもいい天気で、穏やかな風の吹く中、街道沿いに見える海がキラキラと輝いている。
野菜や果物をふんだんに使った、特製サンドイッチを食べながら街道の向こうを見ると、遠くに町の影が見えた。
「あの町が、セラン王国の入口?」
「そうだよ。……あの国は食材だけ買って、さっさと越えてしまった方がいいかな」
僕の質問に答えてくれた父様は、苦笑いでそう言った。
「そういえばシャルムちゃん、以前セランでいろんな男に言い寄られていたものねえ」
父様の言葉を聞いて、今度はディディさんが苦笑いで話す。
確かに父様は、黙っていればお淑やかに見える美人だもんな……中身はお淑やかとは程遠いけど。
「俺もさすがに、この歳で言い寄られるとは思わないが……むしろ、子どもたちが心配だな」
そういえば、サーズリンドで悪酔いマッチョに絡まれた時に、僕とヴァニスが二人とも狙われたっけ。
柴瑛君も可愛い顔立ちをしてるし……セラン王国がそういう風潮の国なら、確かに危ないかもしれない。
「下手に顔を隠すと、逆に絡まれやすくなっちゃうしねぇ……いっそ堂々と、拳で語りながら通り過ぎた方がいいくらいよ」
逆にって事は、顔を隠すとかえって好奇心を刺激してしまう、って事なのかな。
……なんか、メルが言ってためんどくさいって意味が、分かった気がする。
不安ではあるけれど、最悪の場合は誰かに頼るか、風魔法(弱)で厄介者には吹き飛んでもらうとしよう。
浅瀬で泳いだり、砂の城を作ったり、綺麗な貝殻を探したり……途中でヴァニスとディディさんが、泳ぎの競争を始めたり、父様が食べれる魚を捕ったりもしていたけれど。
海水に入りたくないメルに至っては、パラソルの下でサングラスをかけながら、謎のドヤ顔で僕たちの様子を見守っていた。
そして、その日も海の幸たっぷりの夕食を堪能し、すっかり遊び疲れてぐっすり眠った翌日。
「……うぅう……」
「シエル、大丈夫か? カニみたいになってるぞ」
「カニ……」
ヴァニスに心配されつつも失礼な事を言われている僕は、絶賛筋肉痛だ。
まともに泳いだのなんて、小さい頃に川遊びに連れて行ってもらった時以来……その時だって、水の精霊に泳ぎやすいようにしてもらってたんだよな。
海に入ってものすごく久しぶりに泳いだ影響なのだろう、普段使わない筋肉を使ったおかげで、体が悲鳴を上げている。
運動不足な僕と違って、トレーニングを日課にしている父様やヴァニス、朝早くから鍛練している柴瑛君、息をするように筋トレをしているディディさんは、少しくらい海で泳いだところで何ともないようだ……。
「セラン王国に向けて、今から出発の予定だけど……シエル、行けるかい?」
「だ、大丈夫……」
体をギコギコさせながら、父様に返事をする。
筋肉痛で辛いとは言っても、精神的には普通に元気で、風邪をひいた時のようなしんどさはない。
「しょうがないなあ、今日の僕のブラッシングは、シエルを指名してあげよう」
若干呆れたような口調でありつつも、ちょっと得意げに言うメル。
そして、朝市に買い出しに行ってくれていた、ディディさんと柴瑛君が戻ってきたところで、魔動馬車を出して出発となった。
今日は柴瑛君の運転練習を兼ねての走行で、ディディさんが補助についてくれている。
父様はお昼ご飯の下準備をしていて、ヴァニスはプランターの野菜のチェックに行っていた。
そして僕は、窓を開けた寝室で楽な体勢になりながら、メルをモフりつつブラッシング……と言っても、毎日誰かにブラッシングをやってもらってるからだろう、メルの毛はそこまでたくさん抜ける事はない。
だから数日に一回でも十分なんだけど、これはメルが誰かにくっついていたいという理由で、口実にして毎日してもらってるんだろうな。
「……あ、そうだ。ねえメル、今向かってるセラン王国って、どんなところなの?」
「んー、そうだなあ……とりあえず、めんどくさいとこ」
「めんどくさい?」
「あの国、一夫多妻なんだよ。だから旅人だろうが相手がいようが、言い寄ってくる奴らがむっちゃ居るよ」
「ええ……でも、普通に断ればいいよね?」
「そうだねえ。ただ、王貴族なんかはハーレム作ってたりするし、一般人でもしつこい奴は多いよ。ま、あんまり酷かったら、拳で返事してやればいいよ」
それはつまり……口で言っても分からないような相手なら、殴って拒否しろって事?
父様なら相手が吹っ飛ぶかもしれないけど、僕のパンチじゃ軽く流されて終わりなんじゃ……。
魔法を使えば吹っ飛ばすくらいは出来そうだけど、勢い余って大惨事になったらまずいしなあ。
「まー、心配なら、一人で行動しない方がいいよ。シャルムやヴァニス、ディディなら殴り飛ばすくらい簡単だろうし、柴瑛の魔法で姿を隠すとか……あ、それともボクが、蹄キックで撃退してあげようかー?」
楽しそうに笑うメルだが、言っている事はとても物騒だ。
でも、メルの言うとおり、一人で行動するのは止めておいた方がよさそうだな。
せっかくみんなで楽しく旅をしているのに、厄介事に巻き込まれるのは普通に嫌だし。
そう思いながら、筋肉痛に苦しむ一日を終え、よく眠って体もだいぶ楽になった翌日。
その日もとてもいい天気で、穏やかな風の吹く中、街道沿いに見える海がキラキラと輝いている。
野菜や果物をふんだんに使った、特製サンドイッチを食べながら街道の向こうを見ると、遠くに町の影が見えた。
「あの町が、セラン王国の入口?」
「そうだよ。……あの国は食材だけ買って、さっさと越えてしまった方がいいかな」
僕の質問に答えてくれた父様は、苦笑いでそう言った。
「そういえばシャルムちゃん、以前セランでいろんな男に言い寄られていたものねえ」
父様の言葉を聞いて、今度はディディさんが苦笑いで話す。
確かに父様は、黙っていればお淑やかに見える美人だもんな……中身はお淑やかとは程遠いけど。
「俺もさすがに、この歳で言い寄られるとは思わないが……むしろ、子どもたちが心配だな」
そういえば、サーズリンドで悪酔いマッチョに絡まれた時に、僕とヴァニスが二人とも狙われたっけ。
柴瑛君も可愛い顔立ちをしてるし……セラン王国がそういう風潮の国なら、確かに危ないかもしれない。
「下手に顔を隠すと、逆に絡まれやすくなっちゃうしねぇ……いっそ堂々と、拳で語りながら通り過ぎた方がいいくらいよ」
逆にって事は、顔を隠すとかえって好奇心を刺激してしまう、って事なのかな。
……なんか、メルが言ってためんどくさいって意味が、分かった気がする。
不安ではあるけれど、最悪の場合は誰かに頼るか、風魔法(弱)で厄介者には吹き飛んでもらうとしよう。
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