「あら、その子はお友達?」

 帰ってきて早々に、柴瑛君を見たディディさんから出た一言が、それだった。
 まだそうだとも違うとも言い切れない状況の僕たちは、思わず言葉を濁らせる。

「えっと、なんと言うか……ちょっと込み入った事情があって」
「半精霊でしょ?」

 メルの鋭い一言と珍しく警戒するような態度に、思わず目を丸くする。
 感情豊かなメルだが、それはあくまで家族同士のじゃれ合いだったり、本当に敵意を向けてくる相手に対する威嚇がほとんどで、敵意の無い初対面の相手に、いきなり喧嘩を売るようなタイプではない。
 それに精霊でありながらも比較的に子どもに優しいメルが、僕たちより年下の子にこんな態度をとるなんて珍しいのだ。

「メル、悔しいからってあの子に当たるような態度をするのは良くないよ」
「だってー」

 父様が注意すると、メルは腑に落ちないという表情でプクッとふくれた。
 悔しいって何の事……あ、そういえば、昨日メルが半精霊を感知できなかったって言ってたな。

「柴瑛君、もしかして隠密の魔法が使える?」
「え? はい、雲隠れなら」
「やっぱ出来るんじゃん!! きー!! くやしー!!」

 メルは叫びと共に分かりやすく悔しがりながら、地団駄らしきものを踏みだした。
 しかし僕たちから見たら、丸いモフモフがぽふんぽふんと跳ねているだけにしか見えないな……。
 困惑する柴瑛君に、今度は父様が話しかける。

「ごめんね、メルはこう見えて負けず嫌いだから……昨日、君の魔力を感知できなかったのが悔しいんだよ」
「え……と、申し訳ありません」
「謝らないでよ!! 余計悔しくなるでしょ!!」

 ご立腹のメルは、そのまま父様に抱き着き、顔をうずめていじけてしまった。
 父様は「やれやれ」と呟き、いじけ毛玉になったメルを撫でながら、そのままリビングの椅子に座る。
 その様子を見ていたディディさんも、同じように席に着いた。

「さて、それじゃ君の事と、ここに居る経緯を聞いていいかな?」
「はい」

 柴瑛君は自分の出自と町で起こった事、そして守り人に助けてほしいというところまでを、父様とディディさんに説明する。

「その助けてほしいというのは、君が半精霊である事が関係しているのかい?」
「はい、可能であれば、ですが……俺を守り人の村に匿ってほしいのです」
「君自身が問題を起こしたり、法に触れるような事をした、というわけではないね?」
「はい。ご存じとは思いますが、半精霊は人権が無い為に、悪用される事があります。俺自身もそういった輩に捕まりそうになった事が何度かありました。幸いにも、受け継いだ能力が雷の魔力だったのと、忍の技術を身につけていたから逃げ延びることが出来ました」
「だけど、それもいつまで持つか分からない、といったところかな?」
「その通りです。この先どこで、悪意ある者の手に落ちるか分かりません。ですが、守り人の村であれば、そういった心配はなく過ごすことが出来ます。皆様は村に戻られるご様子でしたし、出来る事なら下男として雇って頂ければと」

 そこまで言うと、柴瑛君は丁寧に頭を下げた。
 半精霊ならではの事情は分かるし、嘘をついている様子もない……というか、追われる身の半精霊の子が、わざわざ僕たちに嘘をつく意味はないよね。
 それに言葉使いも礼儀作法も歳のわりにはきちんとしているし、きっと真面目な子なんだろうな。

「分かった、君を村まで連れて行こう。だけど、それにはいくつかの条件があるけれど、いいかな?」
「はい」
「まず、一緒に旅をするみんなが賛成してくれる事。それから、この国に居る間は、禁忌の魔力の調査を手伝ってほしい。守り人の村に着いたとしても、村の人や精霊たち、大樹様が君を受け入れてくれるという保証は出来ない。それでもいいかい?」
「承知しました」

 柴瑛君は、まっすぐに父様を見つめて返事をする。
 その様子を見た父様は、今度は僕たちに向かって問いかけた。

「じゃあまず、みんなの意見を聞かないとね。シエルは?」
「僕は賛成だよ」
「ヴァニス君」
「俺もいいですよ」
「ディディ」
「いいじゃない、ますます賑やかになるわね!」
「メル」
「………………」
「メルー?」

 父様の腕の中でむくれていたメルは、父様がつんつんと突いたら顔だけを出し、じとっと柴瑛君を見て言った。

「……好きにすればー?」

 それだけ言って、また潜り込んでしまったが……これは一応、全員賛成って事でいいのかな。
 
「よし、今から柴瑛君は俺たちの仲間だ」
「ありがとうございます」
「でも一つだけ訂正しよう。下男というよりはもっと気軽な、お手伝いさんになってほしいな」

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