「あれ、こつぶちゃんが増えてる」

 さっきのディディさんのような事を言いながら来訪したのは、クラニスさんだ。
 禁忌の魔力と思われる塊が現れた所に僕たちも居合わせたから、事情を聞きに来たらしい。
 ……と言っても、塊を倒したのは、その増えてるこつぶちゃんですけどね。
 ちなみにオルバートさんは、直接現場へ向かってそのままなんだそうだ。

「まあいいや、大通りでの騒動の時に、こつぶちゃんたちも居合わせたって聞いたんだけど」
「はい、居ました」
「巡回中だった騎士からの報告だと、魔法も剣もまともに効かなかったって言ってたけど、どうやって倒したの?」
「あ、それは……」

 僕は困って父様の方を見る。
 騎士たちが居た場所からは僕たちは見えていても、柴瑛君の姿は見えなかったみたいだ。
 父様は困っていた僕を察してくれたようで軽く頷き、クラニスさんに話しかけた。

「奴を倒したのは、この柴瑛君だよ」
「その子が? どうやって……いや、待って」

 クラニスさんは父様の言葉を聞いて、口元に手を当てて何かを考えるような仕草をする。
 少しの間の後、そうだ、という呟きと共に、クラニスさんは再び話し始めた。

「シャルム、執務室で最初に話した時に、半精霊がいるって言ってたよね? まさかその子が?」
「ああ。この子にも事情があってな、守り人の村へ連れていく事にしたんだ。でも、この国の事が片付くまでは、手伝ってもらおうと思ってな。また同じようなのが現れた時、俺達では倒せん可能性があるだろう?」
「そりゃそうだけど……こつぶちゃんを現場で戦わせるのは、気が引けるなあ」
「もちろん、無茶な事をやらせたりはしないさ。それに柴瑛君は忍の訓練を受けたそうだから、戦えないという事はないはずだ」
「あ、やっぱりヒノカの子だったんだ」

 納得した様子で柴瑛君を見るクラニスさんは、父様に促されてリビングの方へと入る。
 やっぱりこのまま聞き取り調査自体はするみたいだ。
 クラニスさんの向かい側に、調査の対象である僕とヴァニス、柴瑛君も座る。
 柴瑛君の膝の上にメルがふんぞり返っているが、いじけていたのも束の間、「お詫びとして乗っけろー」と柴瑛君に乗っかっていたからだ。
 なんだかんだでメルは誰かにくっついてるのが好きだから、新しいくっつき先の開拓でもしているんだろう。

「えーと、まず、シエル君とヴァニス君だったね? 君たちが奴と鉢合わせた時の状況を教えてくれるかな」

 あ、一応僕たちの名前を憶えていてくれたんだ。
 今までこつぶちゃんとしか呼ばれなかったから、名前を覚えないタイプの人かと思ってた。
 僕とヴァニスは、大通りに出た時の状況をクラニスさんに話す。
 もちろん、魔法や秘剣が効かなかった事や、触手のようなもので攻撃された事、その時に柴瑛君が来てくれたことも。

「なるほど。じゃあ、柴瑛君はどうしてその場に?」
「守り人の魔力を感じたからです。俺は守り人の村に連れて行ってもらいたかったので、直接会って話をしたいと思っておりました。しかし、向かっている最中に異様な魔力を感じ、あのような場に遭遇したというわけです」
「それで、そのまま君がアレを倒してくれたってわけか」

 クラニスさんの言葉に、柴瑛君が頷く。
 しかし、クラニスさんの表情は難しいままだ。

「今回は柴瑛君が居てくれたからよかったけど……正直、あんなものが町中に突然現れるなんて、本当ならあり得ない事だ。市民たちからも事情を聞いたけれど、口を揃えて前触れもなく突然現れたと証言したし……やっぱり君たちも、現れる瞬間は見ていないんだよね?」
「はい、突然騒ぎが起きたんです」
「ちょっと前までは、平和な普通の街並みでしたよ」
「残念ながら、俺も見ていません」
「そっか……」

 クラニスさんは一息ついて、父様が淹れてくれたお茶を飲む。
 すると、お茶請けのパウンドケーキの半分を、当然のようにむさぼっていたメルが口を開いた。

「魔法を使った痕跡は無かったのー?」
「ああ、今回の調査では、転移や召喚の類の魔法の痕跡は無かった。現存の魔道具には、動物は入れられない……アレを動物と呼んでいいかは微妙だけど、一応自分で動いていたようだしね」

 クラニスさんの言葉からは、若干の行き詰まり感を感じる。
 とは言っても、まだ騒ぎから一日も経っていないし、やっぱりすぐには解決しないか……。

「今回の事はオルバートにも伝えておくよ。邪魔して悪かったね」
「いや。また何かあったら伝えてくれ」
「うん、それじゃあまた」

 調査が進んだような進んでいないような微妙な状態で、クラニスさんは帰っていった。
 だけど、禁忌の魔力の塊に対抗することが出来る、柴瑛君の存在確認は大きかっただろう。
 それに、もしまた何かあれば、オルバートさんからの使いの騎士が来てくれるはずだ。

 今日はいろいろありすぎたから疲れたという事もあり、僕たちはこのまま夕食をとって休む事にした。

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