「あら、二人ともどうしたの?」
騎士団の詰所に向かうと、ちょうどどこかから戻ってきたのか、ディディさんと一緒になった。
僕たちは事情を説明しながら、詰所の建物の中へと向かう。
奥の部屋では、父様とメル、オルバートさんとクラニスさんが、地図と書類、事件の証拠らしきものを机の上に並べている。
「あ、ディディおかえり……あれ? こつぶちゃんたちも一緒?」
僕たちの姿を見たクラニスさんは、小首をかしげて不思議そうにする。
そして、僕の方を見たメルが、影の中にいるクートに気付いた。
「シエル……影の中に、めんどくさい奴入れてるでしょ」
この前のフォドラニスの時のように、なんだか嫌そうに言うメルだが……。
その言葉が終わらないうちに、僕の影からクートがにょろっと出てくる。
「わーい、シャルム久しぶりー」
「クート? エルカイムに来ていたのか?」
「うん、昨日ついたとこー。挨拶ついでに、メルにうりゃー」
「ぎゃああああ!! やめろー!!」
父様との挨拶もそこそこに、クートはメルの黒毛の影の中にもさっと入り、ぐるぐると動き回っている。
叫びながらも必死に抵抗するメルだが、あまり効果は無さそうだ。
「あー、もさもさしたー」
「……くそぅ……」
抵抗空しく、ぐったりしているメルをよそに、クートはご満悦な表情だ。
そんな不憫なメルを父様が抱きかかえて撫でているが、この前のフォドラニスの時のように元気に怒っていないから、クートにやられる方が体力的にきついんだろうな。
「でー、なんだっけ? 捜査の協力ー?」
クートの一言に、オルバートさんとクラニスさんは若干驚きつつ、こちらを見ながら話を始めた。
「事件の捜査に、協力してくれるのか?」
「んー、ホントはヤだけど、シエルとシャルムが困ってるんでしょー」
クートは渋々しつつも、父様の方をチラッと見る。
父様は苦笑いでメルを撫でつつ、「まあね」と返していた。
「じゃーとりあえず、僕の知ってるコト話せばいいー?」
「うん、お願い」
僕がそう言うと、クートは「えーとー」と間延びしたような口調で話し始めた。
クートの知っている話をまとめると、こうだ。
今回の事件に関わっていたのは第六支部のほぼ全員だが、唯一、腰を抜かしていた新人さんだけは無関係だったという。
彼らは、現状の自分たちの立場に非常に不満を持っていて、禁忌の魔力を使って騒ぎを起こし、それを自分たちで解決するという……いわゆるマッチポンプがやりたかったらしい。
その事件解決の功績として、竜王様に有能と認めてもらう事で自分たちの株を上げつつ、今の騎士たちを蹴落として自分たちがその地位を手に入れる、というシナリオだったようだ。
しかし、広場で騒ぎを起こして実行するはずだったのに、禁忌の魔力のタネが予定より早く実体化してしまい、計画が失敗してしまったのだとか……本当に、このタイミングで柴瑛君が居てくれてよかった。
で、その問題のタネだが、なんとエルカイムを敵視している魔法国家レスフィウから買い付けたものだそうで、ここにきてさらにキナ臭い状況になってしまったのだ。
犯人たちはレスフィウの手の者の言葉を鵜呑みにし、禁忌を封印できると思っていたようだが、敵視されている国の者から買った物の安全性なんて、どこにも保証はない。
むしろ、犯人を利用してエルカイムを混乱させようと企んでる、と考えたって不思議じゃない状況なのに。
ともかくクートは、以上の状況を元々この国に居た他の闇の精霊から聞いて、興味本位で目つきの悪い人を追いかけている途中で、僕に出会ったようだ。
基本的には人間に干渉しないのが精霊だけど、今回のように、自分が気になる事には首を突っ込む子もたまにいる。
この国に来る前も、他の国の王貴族のゴシップを面白半分で見て来たって言っていたし、クートは好奇心が旺盛なほうなのだろう。
「動機の可能性は視野に入れていたが……レスフィウが絡んでいるのか」
「単純に第六支部をボコすよりも、厄介すぎるなあ」
クートの話が終わると、オルバートさんとクラニスさんは頭を抱えてしまった。
他国、しかも敵視してくる国が絡んでいるなんて、多くの事で問題ありまくりだもんな。
「とにかく、まずは連中を拘束する。君たちが目撃した路地裏は?」
「あ、この店の向かいの……こことこの家の間です」
気を取り直したオルバートさんが僕たちに場所を訊ね、ヴァニスが地図を指しながら答える。
僕たちが居た通りは、宿に向かう途中にある大きくはない道で、裏路地の反対側に古着屋さんがあったんだよな。
「あとは、物的な証拠が欲しいな。クート殿、そのタネを使う為に必要な物はあるのかな?」
「たしかアレ、ビンに入ってたんだよねー。さっきのやつも持ち歩いてたし、まだアジトに隠してると思うよー」
「なら、それを押収しちゃえば、ほとんど現行犯って事ね!」
クラニスさんの問いにクートが答え、ディディさんが意気込んでいる。
「この路地裏でアジトにできそうな場所は二か所か……よし、第一支部から第二支部の騎士を何人か編成して捜査をする。市中には第三から第五支部の騎士を配備、騎士全員に魔力保存の魔道具を持たせて……最悪の事態に備え、柴瑛君にも来てもらいたい」
事件解決の兆しが見えたオルバートさんは、今後の捜査の計画を立てていく。
そういえば、柴瑛君の姿が見えないな。
「父様、柴瑛君は?」
「フォドラニスの所だよ。初対面なのに感電させてしまったから、お詫びに行っておきたいって」
「律儀だなあ」
確かに魔法を使ったのは柴瑛君だけど、原因の半分はメルでもあるし、フォドラニスだって自分から手を出したのだから、自業自得でもあるのに。
精霊たちの気まぐれや悪ふざけに全部付き合ってたら、キリがないけど……でも、その律儀で真面目なところが、あの子のいい所でもあるのかな。
騎士団の詰所に向かうと、ちょうどどこかから戻ってきたのか、ディディさんと一緒になった。
僕たちは事情を説明しながら、詰所の建物の中へと向かう。
奥の部屋では、父様とメル、オルバートさんとクラニスさんが、地図と書類、事件の証拠らしきものを机の上に並べている。
「あ、ディディおかえり……あれ? こつぶちゃんたちも一緒?」
僕たちの姿を見たクラニスさんは、小首をかしげて不思議そうにする。
そして、僕の方を見たメルが、影の中にいるクートに気付いた。
「シエル……影の中に、めんどくさい奴入れてるでしょ」
この前のフォドラニスの時のように、なんだか嫌そうに言うメルだが……。
その言葉が終わらないうちに、僕の影からクートがにょろっと出てくる。
「わーい、シャルム久しぶりー」
「クート? エルカイムに来ていたのか?」
「うん、昨日ついたとこー。挨拶ついでに、メルにうりゃー」
「ぎゃああああ!! やめろー!!」
父様との挨拶もそこそこに、クートはメルの黒毛の影の中にもさっと入り、ぐるぐると動き回っている。
叫びながらも必死に抵抗するメルだが、あまり効果は無さそうだ。
「あー、もさもさしたー」
「……くそぅ……」
抵抗空しく、ぐったりしているメルをよそに、クートはご満悦な表情だ。
そんな不憫なメルを父様が抱きかかえて撫でているが、この前のフォドラニスの時のように元気に怒っていないから、クートにやられる方が体力的にきついんだろうな。
「でー、なんだっけ? 捜査の協力ー?」
クートの一言に、オルバートさんとクラニスさんは若干驚きつつ、こちらを見ながら話を始めた。
「事件の捜査に、協力してくれるのか?」
「んー、ホントはヤだけど、シエルとシャルムが困ってるんでしょー」
クートは渋々しつつも、父様の方をチラッと見る。
父様は苦笑いでメルを撫でつつ、「まあね」と返していた。
「じゃーとりあえず、僕の知ってるコト話せばいいー?」
「うん、お願い」
僕がそう言うと、クートは「えーとー」と間延びしたような口調で話し始めた。
クートの知っている話をまとめると、こうだ。
今回の事件に関わっていたのは第六支部のほぼ全員だが、唯一、腰を抜かしていた新人さんだけは無関係だったという。
彼らは、現状の自分たちの立場に非常に不満を持っていて、禁忌の魔力を使って騒ぎを起こし、それを自分たちで解決するという……いわゆるマッチポンプがやりたかったらしい。
その事件解決の功績として、竜王様に有能と認めてもらう事で自分たちの株を上げつつ、今の騎士たちを蹴落として自分たちがその地位を手に入れる、というシナリオだったようだ。
しかし、広場で騒ぎを起こして実行するはずだったのに、禁忌の魔力のタネが予定より早く実体化してしまい、計画が失敗してしまったのだとか……本当に、このタイミングで柴瑛君が居てくれてよかった。
で、その問題のタネだが、なんとエルカイムを敵視している魔法国家レスフィウから買い付けたものだそうで、ここにきてさらにキナ臭い状況になってしまったのだ。
犯人たちはレスフィウの手の者の言葉を鵜呑みにし、禁忌を封印できると思っていたようだが、敵視されている国の者から買った物の安全性なんて、どこにも保証はない。
むしろ、犯人を利用してエルカイムを混乱させようと企んでる、と考えたって不思議じゃない状況なのに。
ともかくクートは、以上の状況を元々この国に居た他の闇の精霊から聞いて、興味本位で目つきの悪い人を追いかけている途中で、僕に出会ったようだ。
基本的には人間に干渉しないのが精霊だけど、今回のように、自分が気になる事には首を突っ込む子もたまにいる。
この国に来る前も、他の国の王貴族のゴシップを面白半分で見て来たって言っていたし、クートは好奇心が旺盛なほうなのだろう。
「動機の可能性は視野に入れていたが……レスフィウが絡んでいるのか」
「単純に第六支部をボコすよりも、厄介すぎるなあ」
クートの話が終わると、オルバートさんとクラニスさんは頭を抱えてしまった。
他国、しかも敵視してくる国が絡んでいるなんて、多くの事で問題ありまくりだもんな。
「とにかく、まずは連中を拘束する。君たちが目撃した路地裏は?」
「あ、この店の向かいの……こことこの家の間です」
気を取り直したオルバートさんが僕たちに場所を訊ね、ヴァニスが地図を指しながら答える。
僕たちが居た通りは、宿に向かう途中にある大きくはない道で、裏路地の反対側に古着屋さんがあったんだよな。
「あとは、物的な証拠が欲しいな。クート殿、そのタネを使う為に必要な物はあるのかな?」
「たしかアレ、ビンに入ってたんだよねー。さっきのやつも持ち歩いてたし、まだアジトに隠してると思うよー」
「なら、それを押収しちゃえば、ほとんど現行犯って事ね!」
クラニスさんの問いにクートが答え、ディディさんが意気込んでいる。
「この路地裏でアジトにできそうな場所は二か所か……よし、第一支部から第二支部の騎士を何人か編成して捜査をする。市中には第三から第五支部の騎士を配備、騎士全員に魔力保存の魔道具を持たせて……最悪の事態に備え、柴瑛君にも来てもらいたい」
事件解決の兆しが見えたオルバートさんは、今後の捜査の計画を立てていく。
そういえば、柴瑛君の姿が見えないな。
「父様、柴瑛君は?」
「フォドラニスの所だよ。初対面なのに感電させてしまったから、お詫びに行っておきたいって」
「律儀だなあ」
確かに魔法を使ったのは柴瑛君だけど、原因の半分はメルでもあるし、フォドラニスだって自分から手を出したのだから、自業自得でもあるのに。
精霊たちの気まぐれや悪ふざけに全部付き合ってたら、キリがないけど……でも、その律儀で真面目なところが、あの子のいい所でもあるのかな。
スポンサードリンク