翌日、僕とヴァニスは改めて買い物に来ていた。
この前の塊事件で食材がまともに買えなかったし、収納ポーチの食料もだいぶ減ってきてしまったからだ。
さすがに、二回目の買い出しでまたアレに遭遇する、なんていう嫌な奇跡は起こらないだろう。
「えーと、パンとバターと小麦粉……それからじゃがいも、ニンジン、玉ねぎ、トマト、キャベツ、マッシュルーム……」
「なんか、野菜ばっかだな」
「ハムとベーコンも買うよ。久しぶりにお魚もいいね。ムニエルとかソテーにしようか」
「俺はサーモンのがいいな。そういえば、メルが食い散らかしてたお菓子は?」
「父様から禁止令が出されてたから、しばらくは無しだね」
「また禁止令出されたのか」
ここ最近で、またプヨプヨ具合の増してきたメルは、今朝がた父様に何度目かの禁止令を出されていた。
この間も真夜中につまみ食いしてたし、日に日に重さが増してたもんな……。
際限なく横に広がるメルを思い出しつつ、買った食材をポーチに入れていく。
今日の献立は、サーモンのソテーをメインに、オニオンコンソメスープとトマトのサラダも作ろう。
「……シエル、あそこ」
「え? ……あれって……」
宿へ戻る途中の裏路地に、見覚えのある人影が入っていくのが見えた。
あの人は確か、騎士団の第六支部の詰所に居た……目つきの気持ち悪い人だ。
「今の、明らかに怪しかったよな」
「うん……どこに向かったんだろう」
追いかけるべきかと思ったけど、いくら怪しかったとはいえ、あの人が事件に関わっているという証拠はない。
それに、下手に路地裏に入って尾行なんて、プロの密偵や探偵でもない僕たちでは危険だ。
僕たち自身もだけど、相手に感づかれて何かしてきたら騒ぎになるだろうし、無関係の人を巻き込んでしまう可能性だって出てくる。
どうしたものか、と二人で悩んでいると……。
「あれ、見ない顔の守り人だー」
裏路地の入口のそばからニョロっと出てきたのは、黒い布を全身で被っているオバケのような見た目の、小さな闇の精霊だった。
「そーいえばフォドラニスのやつが、シャルムが来てるって言ってたっけー。キミは息子ー?」
「うん、僕はシエルだよ」
「シエルかー、憶えた。僕はクートだよー。ところで、こんなとこでなにしてるのー?」
「実は、怪しい人が裏路地に入ったのを見かけて」
「……あー、あいつかー。禁忌を持ってるから、近づかない方がいいよー」
「えっ!?」
闇の精霊……クートの言葉に、驚いて声をあげてしまった。
禁忌を持ってるという事は、やはり事件に関与しているという事だ。
しかし、禁忌の魔力の塊なんてそう簡単に手に入るものとは思えないし、そもそも入手経路が判明していない。
あの第六支部の彼らが、初めから何もかも準備していたというのは、ちょっと考えにくいし……。
「あいつを捕まえたいなら、半精霊と一緒においでー。シエルと秘剣の子だけじゃ、魔法も魔力も効かないからねー」
クートはのんびりした口調ながらも、ヴァニスが秘剣を使える事と、半精霊である柴瑛君が僕たちと一緒に居る事を知っているようだ。
それじゃあ……。
「クートは今回の事件……禁忌の魔力の事とあの人たちの事、どこまで知ってるの?」
「んー、わりとほとんどかなー。闇の精霊の情報網って、風の精霊並みにあるんだよねー」
わりとほとんど……それなら、クートに協力してもらえば、早い段階で事件が解決するかもしれない。
「それじゃあ、事件の捜査に協力してくれない? このままだと大変な事になっちゃうんだ」
「んー……人間の社会には、あんまり関わりたくはないんだけど……シエルとシャルムが困ってるなら、いいよー」
「ありがとう、クート」
「じゃー、シエルの影に入れてねー」
クートはそう言うと、僕の影の中ににゅるっと入り、布の先っぽだけを出してぴろぴろさせている。
「ヴァニス、オルバートさん達の所に行こう。父様たちも一緒のはずだよ」
「ああ、さすがに裏路地で、あのでかい塊は出さないだろうしな」
影の中にクートをくっつけたまま、僕たちは急いで騎士団の本部の詰所に向かう。
クートとの出会いが、この事件の解決の決め手になると信じて。
この前の塊事件で食材がまともに買えなかったし、収納ポーチの食料もだいぶ減ってきてしまったからだ。
さすがに、二回目の買い出しでまたアレに遭遇する、なんていう嫌な奇跡は起こらないだろう。
「えーと、パンとバターと小麦粉……それからじゃがいも、ニンジン、玉ねぎ、トマト、キャベツ、マッシュルーム……」
「なんか、野菜ばっかだな」
「ハムとベーコンも買うよ。久しぶりにお魚もいいね。ムニエルとかソテーにしようか」
「俺はサーモンのがいいな。そういえば、メルが食い散らかしてたお菓子は?」
「父様から禁止令が出されてたから、しばらくは無しだね」
「また禁止令出されたのか」
ここ最近で、またプヨプヨ具合の増してきたメルは、今朝がた父様に何度目かの禁止令を出されていた。
この間も真夜中につまみ食いしてたし、日に日に重さが増してたもんな……。
際限なく横に広がるメルを思い出しつつ、買った食材をポーチに入れていく。
今日の献立は、サーモンのソテーをメインに、オニオンコンソメスープとトマトのサラダも作ろう。
「……シエル、あそこ」
「え? ……あれって……」
宿へ戻る途中の裏路地に、見覚えのある人影が入っていくのが見えた。
あの人は確か、騎士団の第六支部の詰所に居た……目つきの気持ち悪い人だ。
「今の、明らかに怪しかったよな」
「うん……どこに向かったんだろう」
追いかけるべきかと思ったけど、いくら怪しかったとはいえ、あの人が事件に関わっているという証拠はない。
それに、下手に路地裏に入って尾行なんて、プロの密偵や探偵でもない僕たちでは危険だ。
僕たち自身もだけど、相手に感づかれて何かしてきたら騒ぎになるだろうし、無関係の人を巻き込んでしまう可能性だって出てくる。
どうしたものか、と二人で悩んでいると……。
「あれ、見ない顔の守り人だー」
裏路地の入口のそばからニョロっと出てきたのは、黒い布を全身で被っているオバケのような見た目の、小さな闇の精霊だった。
「そーいえばフォドラニスのやつが、シャルムが来てるって言ってたっけー。キミは息子ー?」
「うん、僕はシエルだよ」
「シエルかー、憶えた。僕はクートだよー。ところで、こんなとこでなにしてるのー?」
「実は、怪しい人が裏路地に入ったのを見かけて」
「……あー、あいつかー。禁忌を持ってるから、近づかない方がいいよー」
「えっ!?」
闇の精霊……クートの言葉に、驚いて声をあげてしまった。
禁忌を持ってるという事は、やはり事件に関与しているという事だ。
しかし、禁忌の魔力の塊なんてそう簡単に手に入るものとは思えないし、そもそも入手経路が判明していない。
あの第六支部の彼らが、初めから何もかも準備していたというのは、ちょっと考えにくいし……。
「あいつを捕まえたいなら、半精霊と一緒においでー。シエルと秘剣の子だけじゃ、魔法も魔力も効かないからねー」
クートはのんびりした口調ながらも、ヴァニスが秘剣を使える事と、半精霊である柴瑛君が僕たちと一緒に居る事を知っているようだ。
それじゃあ……。
「クートは今回の事件……禁忌の魔力の事とあの人たちの事、どこまで知ってるの?」
「んー、わりとほとんどかなー。闇の精霊の情報網って、風の精霊並みにあるんだよねー」
わりとほとんど……それなら、クートに協力してもらえば、早い段階で事件が解決するかもしれない。
「それじゃあ、事件の捜査に協力してくれない? このままだと大変な事になっちゃうんだ」
「んー……人間の社会には、あんまり関わりたくはないんだけど……シエルとシャルムが困ってるなら、いいよー」
「ありがとう、クート」
「じゃー、シエルの影に入れてねー」
クートはそう言うと、僕の影の中ににゅるっと入り、布の先っぽだけを出してぴろぴろさせている。
「ヴァニス、オルバートさん達の所に行こう。父様たちも一緒のはずだよ」
「ああ、さすがに裏路地で、あのでかい塊は出さないだろうしな」
影の中にクートをくっつけたまま、僕たちは急いで騎士団の本部の詰所に向かう。
クートとの出会いが、この事件の解決の決め手になると信じて。
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