次の日は昨日と同じくよく晴れた日で、朝の光が降り注ぐ中、机とベンチを外に出しての朝食だ。
 キッチンの脇の通路でもいいのだけれど、やっぱり少し狭いから、夜や雨の日以外は外の方が広々していいかもしれない。
 今朝のメニューは野菜たっぷりのサンドイッチにじゃがいものポタージュ、マカロニのサラダだ。

「シャルムー、食べさせてー」
「はいはい」

 昨日とは打って変わって超ご機嫌なメルは、朝から父様に甘えている。
 多分、昨日寝る時に父様に抱っこしてもらったんだろうな。
 いじけ毛玉のメルは父様にしこたま甘えれば、次の日には機嫌が良くなってるから。

 でも、こうして見ると小さい子のようなメルだけど、人の姿になった時は父様よりも背の高い、黒い長髪と瞳の美丈夫なんだよな。
 精霊は滅多に人の姿にはならないけれど、どんな人にも自由になれるというわけではなく、その精霊を人に例えたらこう、という姿にだけなれるのだ。
 だから人間に置き換えてみると、父様より一回り以上も大きい黒い人が、父様にべったり甘えまくっているという、シュールな状況に……。
 ……うん、やっぱり置き換えちゃダメだな。まんまるヒツジのままの方が可愛い。

「そうだ、これからの事を話しておかないとね」
「これからの事?」

 父様はメルにサンドイッチを食べさせながら、僕たちに向かって話し始める。

「村に着くまでの間に、いくつか国を越えるって話はしたよね? 少し回り道になるけど、大きな町を通過しながらの順路がいいと思って」
「回り道ですか?」
「みゃんみゃりふぁじゅりぇにょふぉうりゃと、みゃみょにょりゃれちゃるりゃりゃれー」

 父様の提案にヴァニスが問い、メルが食べながら答える……「あんまり外れの方だと、魔物が出ちゃうからねー」かな?
 でも確かに、人が多く暮らしたり行き来する地域なら、そのように守りが固くなっているだろう。
 逆に人の入り込まないような手つかずの場所は、魔物や野生動物の楽園になっているはずだし。

「基本的には大きな街道を馬車で進んで移動し、途中で夜になったら野宿。町が見えたら馬車をしまって宿をとり、食材とかを買いそろえて準備を整えたら出発、の繰り返しになると思うよ」

 なるほど、僕たちは守り人の村を目指しているのだから、よほどの事がない限りは、進んで泊まるのパターンになるのだろう。
 町に入る前に馬車をしまうのは、貴族や豪商と間違われないようにする為かな。
 たいていの町中で馬車を乗り回すのは、身分のある貴族や財産のある豪商くらいのものだ。
 逆にそうでもない立場の人が荷馬車以外を町中で乗り回していたら、貴族や豪商と思われて強盗とかに狙われる可能性が出てしまうから、逆に歩いた方が安全というわけ。

 そして、父様の説明どおりの状況が、アストネアの国内で続いた。
 ラドキアの隣国であるアストネアは、位置的な意味でも文化や風習がラドキアと大きく変わらないし、特別な催しが行われているわけでもなかったから、大きな出来事も事件も無く平和に足を進めることが出来た。

 しかし、問題はさらに東側にあるアストネアの隣国、アルビエルだ。
 アルビエルより先は文化や風土がだいぶ変わってくるらしく、特にサーズリンドという町は、凄くすごいらしい。
 何が凄くすごいのか分からなかったから、父様に具体的な事を聞いてみると、「筋肉」と返ってきた。
 町が凄いというのだから、景色が絶景だったり、何かの文化に特化しているものだと思うのだけれど、筋肉の凄い街ってどういう意味だろう?
 町の人がみんなムキムキなのかな? それとも筋肉を崇拝する文化圏なの? まさか町中では常に筋トレしないといけない?
 日頃から鍛えている父様やヴァニスはともかく、そこまででもない僕はちょっと自信ないぞ……。

 楽しみとも不安とも言えない微妙な気持ちを胸に抱えたまま、僕たちの馬車はサーズリンドに向かっていた。

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