僕たちは宿に戻ると、さっきの植え替えの時に借りていた空き地で、魔動馬車にプランターや家具を運ぶ作業を始めた。
 プランターと鉢は馬車の屋根の上に運び、ひっくり返らないように仕切りの柵に固定する。
 これで移動中も日光を浴びれるし、雨が降れば十分に潤うはずだ。
 キッチンの収納と廊下の物置は、収納ポーチと同じ魔道具になっていたので、家から持ってきた食材や食器、家具をそちらに移し替え、いつでも誰でも出せるようにする。

 ベッドは僕が入り口から向かって左側の一番上、ヴァニスは右側の一番上、父様は左側の一番下、メルは父様と一緒という形で収まった。
 さっそく愛用の毛布やクッションを自分のベッドに持ち込み、日用品や筆記具なども収納棚にしまう。
 三段ベッドの一番上は天井が低いかと思ったけれど、座っても頭がぶつからないくらいの高さはあるし、案外居心地がいいものだ。
 二段目、三段目も同じくらいの高さはあるから、上に上がるには部屋の最奥にある、ちょっとした階段から上がる事になる。
 ベッドのすぐ横にはガラスの窓もあるから外の景色もバッチリ見えるし、逆にカーテンによって目隠しも出来る作りだ。

 さっきはちゃんと見てなかったけど、キッチンとシャワールーム、トイレもしっかりしていて驚いた。
 まずキッチンは、コンロが二つにシンクが一つ、すぐ隣に調理スペースもちゃんとあって、収納も使いやすい位置だ。
 シャワールームは部屋が二つに分けられていて、奥はシャワーと石鹸などを置くための棚、小さな曇りガラスの窓だけでタイル張りだ。
 手前の部屋は脱衣所兼洗面所のようになっており、床は奥半分が水はけの良さそうな網状の素材で、洗面台側はフローリング、壁には二か所に収納棚もあった。
 トイレは床が一段下がった感じになっていて、トイレ本体が奥の中央にあり、その後ろには小さな丸い窓、床はタイル張り。
 向かって右側は台になっていて、タオルハンガーや手洗い場も付いている。
 生活に必要なものがこれだけ揃っていれば、だいぶ快適に旅を続けられるんじゃないか。

 それに、町の中や馬車が入れないような道は、自分たちの足で歩いていく事になるだろう。
 僕はこれから出会う人やまだ見ぬ風景に、内心ワクワクしていた。
 道中には絶景もあるだろうし、町に寄った時には催し物があるかもしれない。それに、美味しいご当地料理とかも……。

「シエルー、顔がヤバいよー」

 メルに言われて、窓に映った自分の顔を見たら、だらしなくニマニマしていた……うん、これはヤバい。
 ぺしぺしと頬を軽くたたき、いつもの顔に戻ってメルの方を見ると、何故かまた運転席に居た。

「メルが運転するの?」
「まかせときなよー」
「え!? 本気で!? 大丈夫なの?」
「若い頃はブンブン乗り回したもんさー」

 メルの若い頃っていつ? 父様と仲良しってくらいだし、同い年以上ではあるよね?
 というか、なんでメルが魔動馬車を乗り回してるの?
 あれこれと疑問はつきないが、メルは精霊だから、動力の魔力に関しては申し分ないだろう。問題は運転技術の方だけどね……。

 それからだいたいの片付けをして、今日はそのまま宿の部屋で泊まり、魔動馬車は翌日に街道に出てから使用する事になった。
 町中では魔動馬車を収納ポーチに入れておけるのだから、魔道具って本当に便利。

 そして翌日、出発して数分で全員がメルの運転に酔うとは、この時は思っていなかった。

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