別のトイレに入って用を足してから、ヴァニスと一緒に夜市を回る。
自分のお店のある場所からは見えなかったけど、美味しそうなお肉の串焼きに具沢山のクレープや、色とりどりの装飾に謎の民芸品など、いろいろなお店がある。
「こんな時間に、こんなに食べちゃっていいのかな?」
「たまにはいいんじゃないか? 毎日ってわけじゃないんだしさ」
僕たちは初めての仕事で稼いだお金で、お肉の串焼きや揚げたてのドーナツ三個入りを食べていた。
こういう場所で歩きながらなにかを食べるって、なんだか新鮮ですごく楽しい。
「あっ」
不意に、衣服を売っていたお店に置いてあった、青色の半透明の髪留めが目に入った。
小さな鳥が果物をくわえている姿が模られていて、反対側の金具で髪をはさんで留めるタイプのものだ。
「シエル、それが欲しいのか?」
「うん、父様に似合いそう」
「シャルムさんに?」
「初めてのお仕事のお金だし、プレゼントしたいなって思って……」
思ったはいいけれど、値段を見たらとても厳しい。
その髪留めは、お肉かドーナツを我慢すれば買えた値段だったのだ。
しかし時すでに遅し、お肉もドーナツも今は僕のお腹の中。
今回は諦めるしかないか、と思っていたら……。
「じゃあ、俺も半分出していいか?」
「え?」
「俺もシャルムさんにプレゼントしたいけど、俺じゃセンス無いからさ。ここは二人からって事にしてくれると、ありがたいんだ」
ヴァニスが僕に気を遣ってくれたのか、僕の話を聞いてそういう気分になったのかは分からないけど、それなら髪留めが買えるし、ボクにとっても嬉しい相談だ。
「それじゃあ、僕たちからのプレゼントだね」
「ああ」
代金を半分づつ支払い、お店のお兄さんから髪留めを受け取る。父様、喜んでくれるかな。
そろそろ自分たちの場所に戻ろうか、と話していたら、十時の鐘が広場に響く。
これは夜市の終わりを告げるものであるらしく、周りのお店の人たちが片づけをし始めた。
僕たちのお店に戻ると、様子を見に来てくれたのか、父様も来ている。
あの後にもクッキーは一つ売れたようだ……一袋だけ残るという、初めてにしてはけっこう優秀な結果になったのではなかろうか。
残った一袋は、宿に戻ったらみんなで食べようという話になり、見本にしていたクッキーは、すでにメルがもしゃもしゃと食べている。
テーブルや椅子を収納ポーチに片付け、皆で宿へと向かう足取りの中。
「父様、これ」
「なんだい?」
「僕とヴァニスから、プレゼント」
さっき買った髪留めを見せると、父様は一瞬驚き、すぐに優しく微笑んだ。
「貰っていいのかい?」
「うん」
「それ、シエルが見つけてくれたんですよ」
ヴァニスはそう言いながら照れたように笑うが、僕もちょっと照れちゃって、えへへ、と笑いながら父様に髪飾りを差しだした。
父様は髪飾りを受け取り、さっそく束ねていた髪に付けてくれる。
「どうかな?」
「あら、いいじゃない! シャルムちゃんによく似合ってるわ!」
「いいと思うよー」
青色の髪飾りは父様の銀色の髪によく映えて、僕から見ても似合ってると思ったし、ディディさんとメルからも好評だ。
「ありがとう、シエル、ヴァニス君。大切にするよ」
すごく嬉しそうにしてくれる父様を見て、僕も嬉しくなってくる。
なんだか温かい幸せな気持ちのまま、フォルフロナの夜はゆっくり更けていった。
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