「どうかな……?」
「うん、よく焼けてるね」
「焼きたてはいただいたー」

 次の日、僕は二日酔いが治った父様に、クッキーの作り方を教えてもらっていた。
 と言っても、いきなりメル型クッキーを作るのは難しいので、最初は普通の丸いクッキーで練習だ。
 そしてオーブンから出したての焼き上がったばかりのクッキーを、横に居たメルがパクッと食べた。熱くないのかな。
 冷ますためにとテーブルの方へ運ぶと、キッチンの中が甘い香りでいっぱいになる。

「ああ、いい匂い……たまんないわねぇ!」
「……ハラ減ってきた」

 通路で筋トレをしていたディディさんと、運転中のヴァニスが匂いに反応する。
 そろそろお茶の時間でもあったので、皆で休憩をとる事にした。

「シエルちゃんの初めての手作りクッキーをもらえるなんて、嬉しいわねぇ」
「ディディの言い方って、なんか怪しいよねー」
「まー、メルちゃんったら失礼ね」

 相変わらずのメルとディディさんの隣で、ヴァニスが「シエルの初めて……」とか呟いている。聞かなかった事にしたほうがいいのかな。
 そうしているうちに、父様が温かいアップルティーを淹れてきてくれた。
 そして、皆がクッキーを口に運ぶ……緊張するな、ちゃんと美味しく出来てるかな。

「あら、美味しい!」
「うん、美味いよ」
「本当? よかった」

 お菓子を作るのは初めてだから、正直、自信が無かった。
 普通の料理だって、あんまり手の込んだものはまだ作れないしな……。

「もうちょっと、おさとう多めでもいいけどねー」
「それ以上丸くなるつもりか?」
「失礼な!! 僕の丸さは、毛並みがフワフワだからなの!!」

 ヴァニスの言葉に、プクーとふくれるメルだが……そういえば、最近ちょっと重たいような……?

「メルって最近、体重を測ってる?」
「ギクッ!! な、なんで?」
「なんか、前より重くなった気がして」
「そ、それはシエルの気のせいだよ?」

 メルは口笛を吹くような素振りを見せるが、ギクッって言ったの、思いっきり聞こえてたからね?
 すると父様がすっと立ち上がり、無言の笑顔でメルをシャワールームへ連行していく。

「気のせいだってばー! シャルムー、ボク重くなってなんかないよー!!」

 もごもごと抵抗するメルの叫びの後に、針の揺れる音、そして一瞬の沈黙の後。

「……メルはしばらく、お菓子禁止」
「ぎゃあああああ!!」

 メルの悲痛な叫び声がこだました。やっぱり太ってたのか。


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