騒動から一夜明けた、爽やかな朝。
 あの後、王都を出てすぐに地元の精霊たちに頼んで、隣国アストネアの国境を越えた三つ目の町に来る事ができた。
 国境すぐの町では騒ぎになる可能性があったから、馬の姿の精霊たちに、さらに先の町まで連れて行ってほしいとお願いしたのだ。
 彼らは普通の馬と違って空中を駆ける事が出来るし、スピードも何倍も速い。
 しかし、彼らにもお気に入りの土地があるし、何度も頼むのは悪いから、力を借りるのは今回だけだ。

 この町に着いてからすぐに宿をとり、疲れに疲れた体を休ませて、すっきりと目覚めて今に至る。
 そして、この町で旅の準備を整えたら、守り人の村を目指して出発する予定だ。
 村はここよりずっと東にあり、まだまだいくつかの国を越えなければいけない。
 その移動の度に精霊たちに頼る訳にも行かないし、あれだけの事になったラドキアは、今頃は追手どころではないはずだ。
 だからこの先は普通にゆっくり進んでも大丈夫だろうし、僕個人としても、夢だった旅ができるというのは嬉しい。
 なので、出発前に僕たちが最初にやるべき事、それは……。

「何とか全部植えれそうだね」
「プランターを作っておいてよかったねぇ」

 土ごと持ってきた苗を、プランターや鉢に植え替える作業だ。
 このままにしていたら枯れてしまうし、周りに少しでも土があれば、苗もそこから栄養が取れるはず。
 水や日光に関しては、宿に泊まるたびに、こまめに出してあげるしかないかな……。

「本当なら、ずっと外の方がいいんだけどね」
「じゃー、魔動馬車でも買っちゃうー?」
「さすがに高いよ」

 父様とメルが話している魔動馬車というのは、収納ポーチ同様に旅人や商人に重宝されている魔道具だ。
 馬が居なくても動く魔力を動力とする馬車で、荷台も物を入れるというよりは、人が快適に過ごせる前提の作りになっている。
 しかも少し浮いた状態で移動するから、揺れが無く乗り心地がとても良いのだとか。
 しかし、大きさもあり機能も良いわけだから、当然値も張る。だから小さなお店や駆け出し冒険者では、まず手が出ない。
 それに行商向け、冒険者向け、貴族向けと様々なタイプがでているが、あくまで遠出を前提としたものばかりであり、農業や至近距離での運送は、従来の馬や牛の引く馬車の方が主流なのだ。
 僕はラドキアの王都の魔道具屋で展示されていたのを見たくらいだけど、たしか一千万ゴルだった。

「うーん……でも、今後の事を考えるなら、買ったほうがいいかな」
「えっ!? 魔動馬車って、すごく高いよね?」
「大きいものならね。小型で機能も控えめなら、百万くらいのもあるよ」

 それでも百万はするのか。
 父様はちょっと欲しそうだし、五百万ゴル持っているなら、買えなくはない値段ではあるけど……。
 それに、僕も魔動馬車にはちょっと憧れてたんだよな。

「土はこれくらいでいいですか?」
「ああ、大丈夫だよ。ありがとうヴァニス君」

 そんな話をしていたら、ヴァニスが帰ってきた。
 この町の園芸品店で、追加の肥料入りの土を買いに行ってくれていたのだ。

「で、百万って何の話です?」
「魔動馬車を買おうかと思ってね。村まではまだ遠いし」
「え、あれ百万で買えるんですか?」
「値上がりしてなければね」

 プランターに土を詰めながら父様は言うが、これは買いたい方にだいぶ気持ちが行ってるな。
 その後も色々と話し合ったが、やはりあった方が便利ではという結論になり、苗の植え替え後に魔道具屋に行く事となった。

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