そこはものすごく大きな図書館だった。
 二階構造の巨大とも言える空間に所狭しと並ぶ何十もの本棚、その合間を縫って目的の本を探したり、机の上に何冊も本をキープしている人々。
 小さめに作られた机と椅子のある場所には、女性と子どもたちの姿も見える。

 そんな様子を、俺達は上の通路からガラス越しに眺めていた。
 今見えている場所は図書館の中でも一般開放されている区域だが、俺達が向かっている場所は許可が無いと入れない場所なのだそうだ。
 こちらには貴重な原書や危険な思想の偏った禁書など、あまり人目に触れてほしくない書物が集まっているようで、許可が無い者が簡単に出入りできないように区切られているのだとか。
 失われし一族についての書物の原書もこちら側にあるという事と、複製本は向こう側にもあるが、火竜王様と番である俺が一般開放されている区域に行くと騒ぎになるから良くない、と言う理由でこっちに居るというわけだ。
 通路の先にある重々しい扉を開くと、ここもまた何重にも並んだ本棚、作業机らしきところには鳥人族の青年がいる。

「……おや、イグニ様がいらっしゃるとは、珍しい。明日は大雨ですね」
「相変わらず軽口をたたく奴だな、ノルス。今日は調べたい事があって来た」
「ほう、それまた珍しい……おや、そちらの可愛らしい小さな御方は、例の番様ですか」

 俺はまた小さい扱いされてしまった。
 確かにこの人も竜人達ほどではないけれど、俺よりは大きい。
 ノルス、と呼ばれた彼は梟の鳥人のようだが、真っ白の髪に真っ黒の瞳、白と黒の羽と羽毛というコントラストがとてもかっこいい。
 しかし梟らしく、全体的にモフっとしているところは愛嬌があるという、なんとも不思議な人だ。

「俺のカナデは可愛かろう」

 火竜王様は、また謎のドヤ顔だ。
 この前の茶会の時もそうだったけど、普段は厳格な竜王様たちも、自分の番の事となるとデレデレになっていたな。

「ええ、これで惚気竜がまた増えましたね」

 ノルスさんはそう言いつつ、半分は呆れ顔だが半分は嬉しそうだ。
 やっぱりこの人も、火竜王様の番の事は心配してたのかもしれないな。

「今日はカナデの素性を調べる為に来た。失われし一族の文献があっただろう」
「失われし一族……!? 本当ですか?」
「ああ、真実の泉で調べたら、大樹とミヅキの国の文字が現れたのだ」
「なるほど……分かりました、文献をご用意しましょう。少々お待ちを……あっ、アルバとロドは手伝ってくださいよ」
「ノルスは竜使いが荒いな」
「失われし一族の文献が、どれだけあると思ってるんですか」

 ノルスさんはそう言いながら、アルバとロドを連れて奥に向かった。アルバ達も文句は言いつつも、手伝ってはくれるようだ。
 俺は火竜王様と並んで、来客用と思われるソファに座る。
 しかし、ノルスさんの言葉からするに、文献はとんでもない量があるんじゃないだろうか……。
 そんな不安は的中し、文献と思われる様々な書物が次々と運ばれてくる。

「おい、まだあるのか?」
「これで半分くらいですよ」

 ソファの前の机の上に、何とか乗っている大量の書物。
 それでも机に乗りきらず、ついに数台の台車まで出てきてしまった。

「失われし一族の記録は、探すのが難しいんですよ。ご存じの通り戦争や内乱、人種差別などの理由で滅んだ種族も少なくありませんから、祖国に当たる国の書物に載っているとは限りません」

 つまり、その国に居た種族ではあるけれど、その国の記録として残すのが不都合という、権力者の思惑があるって事か。
 長い歴史の中では、そういう事も少なくはなかっただろうけど、やはり複雑な気分になる。
 とりあえず俺たちは、記載されている可能性の高いミヅキの書物の中から探す事にした。