「王太子殿下に婚約破棄だけでなく、国外追放まで言い渡されおって!! この役立たずが!!」

 公爵は僕を見るなり怒鳴りつけてきたが、唾が飛んできて汚い。
 奴はすぐに父様の方に向き直ると、今後は父様に突っかかってきた。

「だいたいお前の教育が悪いからこんな事になったんだ!! 今すぐ殿下に平伏して謝罪しろ!! これからは親子共々、厳しく躾け直して……もぎゅっ」

 奴の言葉が終わらないうちに、父様は無言で、さっき使っていたペンを投げつけた。
 それは公爵の顔面に見事にクリーンヒットし、贅肉のおかげで綺麗に埋まっている。

「だ、旦那様!!」
「っこの、生意気な平民風情が!!」

 ガタイのいい使用人たちがこちらに向かってくるが……父様は余裕たっぷりの表情で、メルも小馬鹿にしたように連中を見ている。

「弱そうな連中だな」
「準備運動にはちょうどいいんじゃなーい?」

 そう言ってメルは僕の頭の上にぽふんと乗り、ヴァニスは僕を庇うように前に立ってくれて、父様は……。

「ぐえっ!?」
「おごっ!!」
「うぐぁ!!」

 あのガタイのいい三人を、あっさりと倒してしまった。
 というか、力づくで父様をどうにかしようと思ってたなら、相手が悪すぎるとしか言えない。
 いくら僕の為に領地に引きこもっていたとはいえ、元々はとんでもない武勇伝を数多く残すギルドに所属、しかもそこの最前線で戦ってた人なんだから。
 僕が聞いた話だけでも、火を吹きながら上空を飛び回る翼竜を相手に、塔の上から飛びかかって叩き落した話とか、船の上で巨大イカに襲われた時は、仲間たちと一緒にイカの足をぶっちんぶっちん引きちぎって、それを昼食で食べたとか……。
 あれ、普通に考えて、けっこうすごいというかヤバいというかって事してるな。
 ギルドに入ってたのも半分成り行きだったらしく、父様にとって人生経験の一つのようなものだ、と話していたな。
 まあ、この国に来てからもトレーニングは欠かしていなかったし、素でそれだけ無茶苦茶できる人に対して、ガタイはよくても所詮公爵家の使用人連中じゃ、はっきり言って相手にならないだろう。

「さて、邪魔が入ったけど、気を取り直して行こうか」
「でも、この様子じゃ裏口も……」
「ま、堂々と正面突破してやればいいさ。メル、シエルとヴァニス君を頼むよ」
「まかせといてー」

 そう言ってはいるが、父様はなんだか楽しそう……?
 そういえば、メルから聞いた話だと、父様はこの綺麗な見た目に反して、村一番のやんちゃ坊主だったらしい。
 子どもの頃からすぐに無茶をして、大人たちを困らせていたんだとか……だけど、村の人達から嫌われていたなんて事は無く、ムードメーカー兼トラブルメーカーとして愛されていたようだ。
 父様の場合は好奇心が旺盛に加えて元気が有り余りすぎているだけで、王太子や公爵のようにクズというわけじゃないんだし。

 ……あれ、そういえばいつの間にか公爵が居なくなっているな。
 さっき父様が三人をぶちのめしていた時に逃げたんだろうか。
 そう思っていたら、外の騒めきがさっきより大きくなっている事に気付く。
 馬の蹄の音も聞こえるし、おそらく騎士団が現れたのだろう……どうやら本格的に大騒動になってきたようだ。


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