荷造りを始めた父様は、家中の物を引っ張りだしてきた。
父様の手作りの机やソファ、メルのお気に入りのクッションに僕の愛用の毛布、ヴァニスがよく使っていた椅子もある。
「父様、そんなに持てないよ?」
「大丈夫だよ、コレがあるから」
そう言って父様が見せてくれたのは、手のひらに収まるくらいの大きさの、平たいポーチ。
「なにそれ?」
「みんな大好き、魔法の収納ポーチだよ」
みんな大好きかどうかは置いておいて、魔法の収納ポーチの事は聞いた事がある。
形はいろいろあるけれど、共通しているのは荷物の大きさや重さを気にせず、たくさんの物を詰め込む事の出来る、魔法の技術で作られている代物だ。
その特性から、商人や旅人にとても重宝されているのだという話を聞いた。
「もともと入っていた物を合わせても、まだ余裕はありそうだね」
「もともと? 何が入っていたの?」
「んー、ざっと五百万ゴルくらいかな」
「なにその大金!?」
父様の言葉に、僕だけでなく静かに様子を見ていたヴァニスも驚いた表情になっている。
だって、どちらかと言えば節約思考の父様が、そんなにお金を持ってるなんて知らなかった。
「ああ、心配しなくてもいいよ。これは俺の個人的な資産で、公爵家の息がかかったお金ではないから」
「え? どういう事? だって父様、あんなに仕事してたのに……」
「仕事はしてたけど、あれはあくまでシエルが後を継ぐ為に必要だったからだよ。あの豚野郎は何一つよこさなかったから」
父様は若干吐き捨てるように言ったが、それじゃあ今までの食事とか服、日用品はどうしていたんだろう?
「シエルのご飯も服も、ぜーんぶシャルムが冒険者やってた時に稼いだお金だよ」
「え……じゃあ、父様、ある意味タダ働きさせられてたって事!?」
メルののんきな言葉に、僕は驚愕した。
あれだけ父様が仕事をしていたんだし、いくら何でも食費ぐらいは公爵家から出てるだろうと思っていたからだ。
なのになんにもって事は……あいつは父様に何も還元せずにいいように使って、自分は仕事もせず愛人と遊びまくってブクブク肥えて……うわ、なにそれブチのめしたい。
「ありゃ、シエル怒ってる? でも逆に考えてみなよ。シエルが大きくなったのも物に不自由しなかったのも、全部シャルムのおかげで、あの豚野郎に恩を感じる要素なんて一切ないんだよ? それなら後腐れなく、スッキリサッパリ捨ててやれると思わない?」
「そうかもしれないけど……でもやっぱり、父様がいいように使われてたのはむかつく」
「気持ちは分かるけどねー。ま、あの豚野郎も、シャルムとシエルが居なくなれば一気に困るだろうし、転落していくさ。ボクたちには一切関係ない事だけどねー、あはは」
メルはのんきな口調でそう言うけれど、やっぱり僕は腑に落ち切らない。
そう思っていると、いつの間にか外の菜園の方に行っていた父様が、部屋の方に再び戻ってきていた。
「よし、こんなもんかな……植え替えは王都を出てからだね」
どうやら家具一式に食料品から、家庭菜園の苗まで土ごと持っていくようだ。
まあ、種や苗は父様が買ったものだし、育てていたのは僕たちだし……置いて行っても枯らされるか捨てられるかじゃ、苗が可哀想だもんね。
「さて、それじゃあ行こうか」
「あー……ちょっと、まずいかもしれませんよ?」
今まで様子を見ていたヴァニスが、外塀の方を見て呟く。
野次馬なのか追手なのかは分からないけど、塀の向こうから人の騒めくのような音が聞こえてくる……これで心霊現象だったら、それはそれで驚きだけど。
「表から出るのは、ちょっとまずいかもしれないですね」
「でも、僕たちが裏口を使ってる事は知られてるし……」
どうしたものかと思っていた矢先、家の扉が乱暴に開かれる。
入ってきたのは前に見た時より横に成長した公爵と、ガタイのいい三人の使用人だった。
父様の手作りの机やソファ、メルのお気に入りのクッションに僕の愛用の毛布、ヴァニスがよく使っていた椅子もある。
「父様、そんなに持てないよ?」
「大丈夫だよ、コレがあるから」
そう言って父様が見せてくれたのは、手のひらに収まるくらいの大きさの、平たいポーチ。
「なにそれ?」
「みんな大好き、魔法の収納ポーチだよ」
みんな大好きかどうかは置いておいて、魔法の収納ポーチの事は聞いた事がある。
形はいろいろあるけれど、共通しているのは荷物の大きさや重さを気にせず、たくさんの物を詰め込む事の出来る、魔法の技術で作られている代物だ。
その特性から、商人や旅人にとても重宝されているのだという話を聞いた。
「もともと入っていた物を合わせても、まだ余裕はありそうだね」
「もともと? 何が入っていたの?」
「んー、ざっと五百万ゴルくらいかな」
「なにその大金!?」
父様の言葉に、僕だけでなく静かに様子を見ていたヴァニスも驚いた表情になっている。
だって、どちらかと言えば節約思考の父様が、そんなにお金を持ってるなんて知らなかった。
「ああ、心配しなくてもいいよ。これは俺の個人的な資産で、公爵家の息がかかったお金ではないから」
「え? どういう事? だって父様、あんなに仕事してたのに……」
「仕事はしてたけど、あれはあくまでシエルが後を継ぐ為に必要だったからだよ。あの豚野郎は何一つよこさなかったから」
父様は若干吐き捨てるように言ったが、それじゃあ今までの食事とか服、日用品はどうしていたんだろう?
「シエルのご飯も服も、ぜーんぶシャルムが冒険者やってた時に稼いだお金だよ」
「え……じゃあ、父様、ある意味タダ働きさせられてたって事!?」
メルののんきな言葉に、僕は驚愕した。
あれだけ父様が仕事をしていたんだし、いくら何でも食費ぐらいは公爵家から出てるだろうと思っていたからだ。
なのになんにもって事は……あいつは父様に何も還元せずにいいように使って、自分は仕事もせず愛人と遊びまくってブクブク肥えて……うわ、なにそれブチのめしたい。
「ありゃ、シエル怒ってる? でも逆に考えてみなよ。シエルが大きくなったのも物に不自由しなかったのも、全部シャルムのおかげで、あの豚野郎に恩を感じる要素なんて一切ないんだよ? それなら後腐れなく、スッキリサッパリ捨ててやれると思わない?」
「そうかもしれないけど……でもやっぱり、父様がいいように使われてたのはむかつく」
「気持ちは分かるけどねー。ま、あの豚野郎も、シャルムとシエルが居なくなれば一気に困るだろうし、転落していくさ。ボクたちには一切関係ない事だけどねー、あはは」
メルはのんきな口調でそう言うけれど、やっぱり僕は腑に落ち切らない。
そう思っていると、いつの間にか外の菜園の方に行っていた父様が、部屋の方に再び戻ってきていた。
「よし、こんなもんかな……植え替えは王都を出てからだね」
どうやら家具一式に食料品から、家庭菜園の苗まで土ごと持っていくようだ。
まあ、種や苗は父様が買ったものだし、育てていたのは僕たちだし……置いて行っても枯らされるか捨てられるかじゃ、苗が可哀想だもんね。
「さて、それじゃあ行こうか」
「あー……ちょっと、まずいかもしれませんよ?」
今まで様子を見ていたヴァニスが、外塀の方を見て呟く。
野次馬なのか追手なのかは分からないけど、塀の向こうから人の騒めくのような音が聞こえてくる……これで心霊現象だったら、それはそれで驚きだけど。
「表から出るのは、ちょっとまずいかもしれないですね」
「でも、僕たちが裏口を使ってる事は知られてるし……」
どうしたものかと思っていた矢先、家の扉が乱暴に開かれる。
入ってきたのは前に見た時より横に成長した公爵と、ガタイのいい三人の使用人だった。
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