エルメトリの公爵邸は、領地に入ってすぐの場所にある。
 おそらくは多くの理由で行き来の多い王都へ、すぐに向かえるようにだろうか。
 それに、下手に郊外に邸を構えるより、都に近い方が有事の際に安心だという理由もあるかもしれない。
 この邸を立てた初代公爵の意図は分からないが、現公爵は王都が近くて便利、くらいにしか思っていないだろう。

 僕とヴァニスはいつも通り、裏口から敷地へ入る。
 僕たちが本邸に入ることは許されておらず、仕事も生活も庭の隅の小さな家でしているし、家具も父様の手作りだ。
 それなのに領地の仕事は全て父様がしている……まあ、僕たちからしても、あの公爵や使用人と頻繁に顔を合わせるくらいなら、こうして放っておかれた方が楽ではあるんだけれど。
 だからここには、僕たち家族以外は仕事の書類を持ってくる不愛想な使用人が来るぐらいだ。
 玄関を開けると、そこからすぐの部屋で仕事をしていた父様は、早々に戻ってきた僕たちに驚いていた。

「シエル? おかえり……今日はパーティーだったよね? それに、ヴァニス君も?」
「父様、嬉しいお知らせ」
「なんだい?」
「僕、あのバカちん……王太子に、婚約破棄されて国外追放を言い渡された」
「……なんだって?」
「僕の味方をした人も、全員追放だって。ヴァニスは僕の味方になってくれたよ」

 そこまで言うと、父様はペンを置いてふるふると震え出した。

「父様?」
「……いっえええーい!!」

 満面の笑みの父様の勢いあるバンザイで、部屋中に書類が吹き飛んだ。
 さっき僕の話を聞いてくれていた時は、僕と同じ銀色の髪と青色の瞳が物静かな印象を醸し出していたけれど、いざフタを開けると超ノリノリでアクティブなタイプなんだよな、父様は……まあ、そこが良い所なんだけど。

「なーに、はしゃいでんのー?」

 奥の部屋のドアを器用に開けて出てきたのは、モフモフの黒毛が素晴らしい、まんまるヒツジの精霊メルだ。
 見た目はこんなにも愛らしいモフモフだけど、父様と仲良しなだけあって、なかなかな性格をしている。

「シエルがあの馬鹿に婚約破棄されたそうだよ」
「え、マジで!? お祝いのパーティーしないと!!」

 うん、メルならそう言うと思った。
 でも今回は国外追放もセットだから、あんまりゆっくりはしてられないんだよね。

「パーティーは国を出てからだね。シエルの味方は全員、国外追放だそうだから」
「って、それじゃあ精霊全員が出てくんじゃない?」
「いいんじゃないか? 未来の国王が決めた事なんだし」

 そう、メルを含む精霊たちは、みんな僕たちの味方だ。
 それは僕と父様が、「大樹の守り人」という系譜だから。


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