「シエル・エルメトリ!! このか弱いリリックを虐げた罰として、貴様との婚約を破棄し、国外追放を命じる!!」
「うわ、めんどくさ」
国内だけでなく、国外からも多くの要人が集まる建国パーティーの日。
その会場で、僕の一応婚約者の王太子が、また何やらおかしな事をやり始めた。
「なんだと!? 今なんと言った!!」
「いえ別に」
嫌々で答えながら、小さくため息をつく。
というのもこの王太子、相手をするのもめんどくさいレベルの典型的な馬鹿王子なのだ。
学業も武術も下から数えた方が早いくらいで、それなのに努力の一つもしない。
人がらが良いわけでもなければ容姿も普通、そのくせ常に他者を見下して、自分を褒め称える人間しか周りに置かないという、分かりやすいダメっぷり。
加えて、見目の良い令息たちに手を出しまくるし、その後の責任だって取りもしない。
あのリリックという令息も、おそらく使い勝手の良かったお手付きの一人だろう。
なんで父様は、こんなのとの仮婚約を受けたのだろうと思ったけれど、形だけの父親である公爵の方が、勝手に二つ返事で了承した事だったのだ。
だからと言って、僕が奴に尽くす義理や責任はない。
いくら政略結婚とはいえ、向こうが先に不義理な事をしてきたんだし、そもそも婚約の話も王家から出たわけだし。
最初こそは、仮でも一応婚約者ならばと思って注意したりサポートしたりもしたけれど、奴から返ってくるのは暴言ばかり、時には手を上げられた事もあった……当たる前に避けたけど。
そんなこんなが続いたから、僕はとっくに関係の改善を諦めていた。
あいつが何かやらかしたって、それはあいつ自身と保護者である王家、彼らの選んだ教育係や側近の責任。
未だに形だけの婚約者で、それだってどうとでも替えのきく存在の僕が、あいつの言動や行動の責任を取る義理も道理もない。
だから僕は、あいつの事は基本的に放置していた。
あいつの事で、被害を受けた令息から苦情が来る事もあったが、「苦情は王家にどうぞ」とも返したっけ。
だって僕は確定してない仮の婚約者で、あいつの教育係でもクレーム処理係でも何でもない。
そもそも僕としても、互いに嫌いあってる事は自他共に認められてるんだし、いい加減に白紙になるなり破談になるなりしないかなあ、と思っていたところだ。
だからといって、その方法にこの茶番を望んでいたわけではないから、心底めんどくさいというわけだが。
「この者に味方する者も、同罪として国外追放とする! ただし、ヴァニス・マルジェ!! この場で私に平伏し忠誠を誓うのであれば、貴様は見逃してやろう!!」
バカちんの言葉が終わるや否や、周りに居た貴族たちはとたんに僕を悪く言いだした。
てか、他国の要人の方々が来賓として出席してるの、忘れてない? 所詮は同レベルのバカちんって事なんだろうか。
そんな人だかりの中から現れたのは、深い赤色の短髪に同じく赤い目の、騎士団長の次男のヴァニスだ。
彼は僕が小さい頃からの仲良しで、学園や社交の場でも孤立しがちな僕を気にかけてくれて、いろんな話をしたり一緒に行事を楽しんだりもした。
バカちんがヴァニスを見逃すと言ったのは、彼が世界的にも珍しい「秘剣」の能力者だからだろう。
精霊たちや魔法使いに頼らずとも、魔法剣を扱える秘剣は、その力が国防に役立つのはもちろん、能力者の有無が他国への牽制にもなるから、多くの国が欲しがる人材なのだ。
殴りたい笑顔の王太子に近づくヴァニスの背を見ながら、心の中で「今までありがとう」と呟いた。
この国に未練はないけれど、ヴァニスとお別れなのは、やっぱり寂しいな。
そう思って、もう一度ヴァニスの方を見ると……。
「ふぎゃああああん!?」
情けない悲鳴と共に、バカちんが豪快に吹き飛ばされていた。
そして奴を殴ったであろうヴァニスは、いい笑顔で一言。
「よし!!」
……いや、よし、じゃないよ。
「うわ、めんどくさ」
国内だけでなく、国外からも多くの要人が集まる建国パーティーの日。
その会場で、僕の一応婚約者の王太子が、また何やらおかしな事をやり始めた。
「なんだと!? 今なんと言った!!」
「いえ別に」
嫌々で答えながら、小さくため息をつく。
というのもこの王太子、相手をするのもめんどくさいレベルの典型的な馬鹿王子なのだ。
学業も武術も下から数えた方が早いくらいで、それなのに努力の一つもしない。
人がらが良いわけでもなければ容姿も普通、そのくせ常に他者を見下して、自分を褒め称える人間しか周りに置かないという、分かりやすいダメっぷり。
加えて、見目の良い令息たちに手を出しまくるし、その後の責任だって取りもしない。
あのリリックという令息も、おそらく使い勝手の良かったお手付きの一人だろう。
なんで父様は、こんなのとの仮婚約を受けたのだろうと思ったけれど、形だけの父親である公爵の方が、勝手に二つ返事で了承した事だったのだ。
だからと言って、僕が奴に尽くす義理や責任はない。
いくら政略結婚とはいえ、向こうが先に不義理な事をしてきたんだし、そもそも婚約の話も王家から出たわけだし。
最初こそは、仮でも一応婚約者ならばと思って注意したりサポートしたりもしたけれど、奴から返ってくるのは暴言ばかり、時には手を上げられた事もあった……当たる前に避けたけど。
そんなこんなが続いたから、僕はとっくに関係の改善を諦めていた。
あいつが何かやらかしたって、それはあいつ自身と保護者である王家、彼らの選んだ教育係や側近の責任。
未だに形だけの婚約者で、それだってどうとでも替えのきく存在の僕が、あいつの言動や行動の責任を取る義理も道理もない。
だから僕は、あいつの事は基本的に放置していた。
あいつの事で、被害を受けた令息から苦情が来る事もあったが、「苦情は王家にどうぞ」とも返したっけ。
だって僕は確定してない仮の婚約者で、あいつの教育係でもクレーム処理係でも何でもない。
そもそも僕としても、互いに嫌いあってる事は自他共に認められてるんだし、いい加減に白紙になるなり破談になるなりしないかなあ、と思っていたところだ。
だからといって、その方法にこの茶番を望んでいたわけではないから、心底めんどくさいというわけだが。
「この者に味方する者も、同罪として国外追放とする! ただし、ヴァニス・マルジェ!! この場で私に平伏し忠誠を誓うのであれば、貴様は見逃してやろう!!」
バカちんの言葉が終わるや否や、周りに居た貴族たちはとたんに僕を悪く言いだした。
てか、他国の要人の方々が来賓として出席してるの、忘れてない? 所詮は同レベルのバカちんって事なんだろうか。
そんな人だかりの中から現れたのは、深い赤色の短髪に同じく赤い目の、騎士団長の次男のヴァニスだ。
彼は僕が小さい頃からの仲良しで、学園や社交の場でも孤立しがちな僕を気にかけてくれて、いろんな話をしたり一緒に行事を楽しんだりもした。
バカちんがヴァニスを見逃すと言ったのは、彼が世界的にも珍しい「秘剣」の能力者だからだろう。
精霊たちや魔法使いに頼らずとも、魔法剣を扱える秘剣は、その力が国防に役立つのはもちろん、能力者の有無が他国への牽制にもなるから、多くの国が欲しがる人材なのだ。
殴りたい笑顔の王太子に近づくヴァニスの背を見ながら、心の中で「今までありがとう」と呟いた。
この国に未練はないけれど、ヴァニスとお別れなのは、やっぱり寂しいな。
そう思って、もう一度ヴァニスの方を見ると……。
「ふぎゃああああん!?」
情けない悲鳴と共に、バカちんが豪快に吹き飛ばされていた。
そして奴を殴ったであろうヴァニスは、いい笑顔で一言。
「よし!!」
……いや、よし、じゃないよ。
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