世界の中心と言われる、大国ロンザバルエ。
 多種多様な種族と文化が花開くこの都市に、俺はしばらく滞在していた。
 ここが世界の中心と言われる所以は、古代よりこの世界において絶対的な存在である四竜王の守る地であるからだ。
 彼ら四人は竜人族の長であると同時に、この世界の環境とも密接な関係があり、永遠とも言える時間を生きる存在である。

 その関係もあって、この都市は元々人口の多い場所だが、今日は輪をかけて賑わっている。
 小耳にはさんだ話によると、四竜王が番様たちと共に、中枢と呼ばれる場所で儀式を行っていたとかで、その帰りの様子がこの大通りから見れるらしい。
 集まった人々はおそらく、彼らを一目見たいとか、あやかりたいとかの理由なのだろう。
 俺としても興味はあるが、そこまで騒ぎ立てたいというわけではない。

 愛用の笠を少し上げ、道の脇へと移動する。
 無理にがっつかなくても、一瞬でも目に入れば、旅の思い出話くらいにはなるだろう。
 そう思っていたら、前方の方から歓声が聞こえる。
 竜人族の警備兵たちがきっちりと並ぶ橋の上に、四竜王たちが現れたのだ。

 最初に歩いてきたのは、水竜王様と、その番様。
 続いて風竜王様、地竜王様がそれぞれの番様と並んで歩いていく。
 しかし、最後の火竜王様だけは、一人で歩いている……なんでも、まだ番様が見つかっていないのだそうだ。
 まだ生まれてもいないのかもしれないし、あるいはすでに亡くなっているのかもしれない。

 竜人族は番となる相手とのみ結ばれる、それは長である四竜王であっても同じ。
 しかし、普通の家に生まれて問題もなく育っていればいいけれど、親に虐待されていたり、あるいは天災や事件、事故に巻き込まれて命を落としてしまう可能性だってある。
 それなのに、番という存在は別の者を代わりにする事ができず、尚且つ自分で見つけなければならないという。

 しかし、竜王様でない竜人は全種族から探さねばならないが、竜王様は男の中から探せばいいという分には、まだ探しやすいだろう。
 これは竜王様が子孫を残す必要が無いという事に加え、番様が同性でなければ魔力の調和が取れないから、という理由があるそうだ。
 それが影響しているのか、この都市は他の町に比べると、同性の夫婦や恋人が多い。

 そんな事を考えているうちに竜王様たちは行ってしまったので、人の流れの波が出来る前に、俺も今夜の宿へと戻る。
 不意に振り返った火竜王様と目が合った気がするのは、きっと気のせいだろう。