「カナデ様、こちらをお召しになってください」
「服?」
「はい、番様の正装が出来上がりましたので」
そういえば、俺が自分で歩けるようになった頃、アルバとロドに採寸されたな。
何でも四竜王様の番様は、それぞれの王を象徴する色の服を着る事になっているそうだ。
火竜王様はその名の通り、炎を象徴とする、赤。そして、王として如何なるものにも染まらぬ色の、黒。
なので彼の番である俺の正装は、赤と黒を基調としたものとなる。
服の形は着物……というか、甚平や作務衣を参考にしてくれたのか、全体的に緩やかな作りだ。
しかし襟元や腰回り、足元はなどはちゃんとしまるようになっているから、見た目より動きやすい。
問題はこの赤と黒の色合いが、俺に似合っているかだ……俺は無難な、青や緑を好んで着ていたからな。
「カナデ、正装はどう……」
様子を見に来たであろう火竜王様が、部屋に入るなり固まった。
なんだ、びっくりするほど似合ってなかったのか?
「……変ですか?」
「い、いやいやいや!! そんな事は無い!! むしろ美しすぎて思考が停止しただけだ!!」
またこの人は変な事を言い出したな。美しいって、別にそこまでじゃあないだろう。
いや服自体は、ミズキの国で使われる模様を職人の手で取り入れてくれてるから、そりゃあ綺麗だけど。
「……えーと、それで、正装の理由は?」
「今日は君のお披露目の茶会だ」
「は?」
「もう怪我も治ったし、ここの暮らしにも慣れてきただろう? やっと兄弟とその番たちに、君を紹介できるというわけだ」
「え、俺、茶会のマナーとか、全く分かりませんけど」
「ああ、その辺りの事は気にしなくていい。名前が茶会というだけで、みんな自由にしているからな」
いやでも、演劇とかで見た茶会って、マナーがどうこうと言われたりしてたよな?
そんで、新参者や地位の低い者が、ネチネチいじめられたりする場所だよな?
他の四竜王様や番様が、そんな方達だという根拠はないけど……それでも一瞬で不安になったんだが。
足取りの重い俺を連れて、火竜王様はスキップでも始めるんじゃないかという勢いで足を進めていく。
連れてこられたのは赤や白の薔薇が咲きほこる、見本のように美しい庭園だ。
そして、庭園の奥にある場所に、四竜王様とそれぞれの番様が。
その光景に、俺は圧倒された。
テーブルには豪華なティーセットに盛りだくさんの菓子。
それを囲むように四竜王様と番様がペアで並び、さらに後ろには、それぞれの護衛の竜人兵たち。
……うん、全員でかい。
竜人である竜王様や兵たちが大きいのは分かる。
だが、番様も俺より背や体格が大きい人ばかりで……つまりは、俺が一番小柄なのだ。
大型の動物の群れに、小動物が一匹で放り込まれたようなもんだ、圧倒されても仕方ないだろ?
そして、俺を見た番様の一人……しかも一番でかい人が急に立ち上がり、ずんずんと俺の方に向かってきた。
やばい、なんかしたか……あ、いや、こっちから挨拶とかするのが礼儀なんだっけ!?
どうしよう、本当に分からんと、うろたえていると……。
「……かわいい!」
「むぎゅ」
こちらに来た番様に、力いっぱい抱きしめられてしまった。
彼に敵意は無い、と思うが……これは一体どういう状況なんだ。誰か分かるように説明してくれ。