*「そこまで言ってない」以降の話です。
「……イグニ様、これは?」
「君の故郷のミズキでは、新年に干支という動物が毎年交代していくのだと聞いたのだ」
「ええ、そうですが……」
「そして今年は、うさぎの年だと聞いたんだ」
「はい……それで、これは」
「カナデに着てもらいたくて用意した、うさぎのモコモコパジャマだ」
「どうしてそうなったんですか」
「間違いなく愛らしいと思ったからだ」
謎のドヤ顔のイグニ様に渡されたのは、モコモコで真っ白なつなぎのパジャマで、フードにはうさぎの耳が付いている。
どこで干支の事を聞いたんだとか、いろいろ間違っている気がするとか、思うところは多々あるが、目の前のイグニ様は期待の眼差しで俺を見つめている。
……まあでも、バニーガールの衣装を持ってこられるよりはマシか。
それにこのパジャマ、けっこう手触りもいいし温かそうだ。
男同士とはいえ、なんとなく恥ずかしかったので、イグニ様には後ろを向いてもらって、モコモコパジャマを着てみる。
起毛している素材のおかげか、温かくて着心地もいい。
「これ、温かくていいですね」
「……マジヤバい……可愛い……」
パジャマに着替えた俺を見たイグニ様は、また語彙力行方不明状態になってしまっている。
「……イグニ様!?」
「……可愛い……食べてしまいたい……」
「え、俺、捕食されるんですか!?」
モコモコうさぎになった俺は、イグニ様にむぎゅっと抱きしめられて、まさかの捕食宣告をされてしまう。
これは竜が肉食で、うさぎが草食だから……!?
「失礼します……おや、ラブラブですね」
「あっ、アルバ!! 俺、捕食されるみたいなんだけど!?」
「捕食? ……分かりました、少々お待ちを」
そう言って、アルバは運んで来たお茶とお菓子を手早くテーブルの上に置き、こっちに近づいてきて……。
「……うぐっ!」
持っていた銀のトレーの角で、イグニ様の頭をゴスッと叩いた。
さすがのイグニ様も痛かったのだろう、声を上げたと同時に語彙力も帰ってきたようだ。
「……何をする」
「カナデ様が誤解されている上に、怖がってしまわれてますよ。どうせイグニ様の事だから、妙な事を口走ったのでしょうけど」
アルバにそう言われ、イグニ様はちらりと俺の方を見る。
俺が不安げにしていた事もあってか、イグニ様は俺から離れて、少し気まずそうにしていた。
「……すまない、カナデ。そういう意味ではないというか……その、ある意味そうなんだが、誤解というか……」
なんだか煮え切らない様子のイグニ様だが、どうやら俺は捕食はされないようだ。
「まったく、いくらカナデ様が抱きしめたいほど愛らしいからと言って、変な方向に暴走しないでくださいよ」
アルバはいつもの呆れ顔になって、お茶を置いたテーブルの方へ戻っていく。
俺に誤解させたことを気にしているのだろう、若干しょんぼりになってしまったイグニ様の手を、そっと取る。
「イグニ様、落ち着いてお茶を飲みましょう?」
俺がそう言うと、イグニ様の表情がぱっと明るくなる。
俺たちは席について、甘い香りのストロベリーティーと、色とりどりのマカロンを美味しく食べ、他愛ない話に花を咲かせた。
その後もうさぎ姿のまま、宮の中を行き来していたからだろう……ほとんどの火竜たちに、小動物を愛でるような眼差しを送られていたと知ったのは、次の日の事だった。
「……イグニ様、これは?」
「君の故郷のミズキでは、新年に干支という動物が毎年交代していくのだと聞いたのだ」
「ええ、そうですが……」
「そして今年は、うさぎの年だと聞いたんだ」
「はい……それで、これは」
「カナデに着てもらいたくて用意した、うさぎのモコモコパジャマだ」
「どうしてそうなったんですか」
「間違いなく愛らしいと思ったからだ」
謎のドヤ顔のイグニ様に渡されたのは、モコモコで真っ白なつなぎのパジャマで、フードにはうさぎの耳が付いている。
どこで干支の事を聞いたんだとか、いろいろ間違っている気がするとか、思うところは多々あるが、目の前のイグニ様は期待の眼差しで俺を見つめている。
……まあでも、バニーガールの衣装を持ってこられるよりはマシか。
それにこのパジャマ、けっこう手触りもいいし温かそうだ。
男同士とはいえ、なんとなく恥ずかしかったので、イグニ様には後ろを向いてもらって、モコモコパジャマを着てみる。
起毛している素材のおかげか、温かくて着心地もいい。
「これ、温かくていいですね」
「……マジヤバい……可愛い……」
パジャマに着替えた俺を見たイグニ様は、また語彙力行方不明状態になってしまっている。
「……イグニ様!?」
「……可愛い……食べてしまいたい……」
「え、俺、捕食されるんですか!?」
モコモコうさぎになった俺は、イグニ様にむぎゅっと抱きしめられて、まさかの捕食宣告をされてしまう。
これは竜が肉食で、うさぎが草食だから……!?
「失礼します……おや、ラブラブですね」
「あっ、アルバ!! 俺、捕食されるみたいなんだけど!?」
「捕食? ……分かりました、少々お待ちを」
そう言って、アルバは運んで来たお茶とお菓子を手早くテーブルの上に置き、こっちに近づいてきて……。
「……うぐっ!」
持っていた銀のトレーの角で、イグニ様の頭をゴスッと叩いた。
さすがのイグニ様も痛かったのだろう、声を上げたと同時に語彙力も帰ってきたようだ。
「……何をする」
「カナデ様が誤解されている上に、怖がってしまわれてますよ。どうせイグニ様の事だから、妙な事を口走ったのでしょうけど」
アルバにそう言われ、イグニ様はちらりと俺の方を見る。
俺が不安げにしていた事もあってか、イグニ様は俺から離れて、少し気まずそうにしていた。
「……すまない、カナデ。そういう意味ではないというか……その、ある意味そうなんだが、誤解というか……」
なんだか煮え切らない様子のイグニ様だが、どうやら俺は捕食はされないようだ。
「まったく、いくらカナデ様が抱きしめたいほど愛らしいからと言って、変な方向に暴走しないでくださいよ」
アルバはいつもの呆れ顔になって、お茶を置いたテーブルの方へ戻っていく。
俺に誤解させたことを気にしているのだろう、若干しょんぼりになってしまったイグニ様の手を、そっと取る。
「イグニ様、落ち着いてお茶を飲みましょう?」
俺がそう言うと、イグニ様の表情がぱっと明るくなる。
俺たちは席について、甘い香りのストロベリーティーと、色とりどりのマカロンを美味しく食べ、他愛ない話に花を咲かせた。
その後もうさぎ姿のまま、宮の中を行き来していたからだろう……ほとんどの火竜たちに、小動物を愛でるような眼差しを送られていたと知ったのは、次の日の事だった。