いつの間にか眠ってしまい、お腹を空かせながら目覚めた次の日。
 朝食の後、俺は火竜王様たちに連れられて、中枢と呼ばれる場所に来ていた。
 なんでもここには、真実の泉と呼ばれるものがあるそうだ。
 そうして着いた部屋はとても大きいけれど、真ん中の水たまり以外は何もない空間。

「あれが真実の泉です。カナデ様、ここで少しお待ちになって見ていてくださいね」

 アルバはそう言いながら、中央にある水たまり……泉に近づく。
 そして泉にアルバの姿が写った瞬間、泉から高い火柱が立ち、轟々と燃え盛っている。
 泉の水面だった辺りには、火竜を表す共通文字が浮かんでいた。

「俺は火竜ですから、泉からは火柱が立って文字が出ます。このようにこの泉では、映った者の種族や属性が分かるようになっているのですよ」

 なるほど、それで同じように俺が映れば、俺の種族と属性も分かるというわけか。
 俺としても、自分の事をはっきりさせたいという気持ちはある……だけど、少し怖い。
 火竜王様はああ言ってくれたけれど、本当はこの力が良くないものだったら。誰かを傷つけるようなものだったら。

「大丈夫だ、カナデ。たとえどんな結果になっても、俺達はそれを受け入れる。決して君を傷つけたりはしない」

 優しく諭すように俺を気遣ってくれる火竜王様の言葉を信じ、頷いて一歩踏み出した。
 アルバが泉から離れると、火柱は何事もなかったかのようにフッと消えてしまう。
 そしてまだ少し残る熱気の中を進み、若干躊躇する俺の姿が泉に映った瞬間。

「うわっ!」
「これは……」

 先ほどの火柱と同じくらいの勢いで、泉から堂々と現れたのは、大樹。
 それは泉から溢れるほどに逞しい根を張り、部屋の大きさだけでは足らないとばかりに伸びる枝には、色とりどりの花が咲き様々な実が結ばれている。
 そしてしっかりと生い茂る鮮やかな緑の葉は、まるで歌うように軽やかにさざめいていた。
 俺は一瞬固まったが、思い出して泉の水面だった場所に視線を落とすと、そこには「春告」という文字が浮かんでいる。

「春告……?」
「それはミヅキの文字のようだが……カナデ、意味は分かるか?」
「えっと、多分……梅や鶯の異名だったはずですけど……」
「ウメ」
「ウグイス」
「可愛いな」

 俺の言った単語を繰り返す火竜たち。最後の一言は、もちろん火竜王様だが。
 いやしかし、俺は樹人でも鳥人でもない人間なんだけど、これは一体どういう事だ?
 混乱する俺に助け舟を出してくれたのは、フラムさんだ。

「カナデ様、それらが意味する事が、貴方様の種族を示す手掛かりではありませんかな?」
「え? それじゃあ春を告げる象徴が、俺の種族と関わってるって事?」
「恐らくは。種族の名がミヅキの文字で表されておりますし、カナデ様は失われし一族の末裔ではないかと」

 失われし一族。
 戦争や人種差別、災害に自然淘汰……そんないろんな事情で、今の時代では絶滅してしまった一族の総称の事だ。
 そういう種族の中には、魔法とは異なる能力を持つ人々もいたという……じゃあ、俺もそのうちの一人なのか?

「ふむ……カナデ、このまま大図書館に行こう。失われし一族の文献があったと思う」
「大図書館?」
「この中枢には、大図書館という書物の宝庫がある。一部のエリアは一般開放もしている場所だ」

 書物か……そういえば、俺は文字は師匠から習ったけど、本を読むという事はあまり無かったな。
 その大図書館を俺も使わせてもらえるなら、この機にいろんな知識を得るというのもいいかもしれない。
 知識が無いよりあったほうが、自分の事だけでなく、誰かの役にたてるかもしれないし。
 そんな事を考えつつも、火竜王様の隣を歩きながら大図書館へと向かった。