ふにゃふにゃになったパーティーの翌日。
 俺は疲れすぎて部屋着に着替え、そのまますぐ寝てしまったんだが、ちゃんとシーツと毛布を掛けなかったせいで、不覚にも風邪をひいてしまった。
 朝、起きたら体がだるく、熱っぽい……それに、なんかぼんやりする。
 昨日頭を使いすぎたし、これは知恵熱の可能性もあるけど……。

 いつもの様に部屋に来てくれたアルバにその事を話すと、今日一日は休んでいるようにと言われた。
 そしてすぐにフラムさんを呼んでくれ、診察の後に熱さましの薬と氷のうを用意してくれる。
 前々から思っていたけど、やっぱり体力が落ちているんだろう。
 旅をしていた時は、外套にくるまって木の下で一晩の野宿でも、全然平気だったんだけどなあ。

「情けないなあ……」

 誰に言うわけでもなく、一人ぽつりと呟く。
 しかし当然ながら、傍に居てくれるアルバにはしっかり聞こえていた。
 アルバは少し困ったような笑顔で、ハチミツ入りの温かいレモネードを渡してくれる。

「昨日は大変でしたから、お疲れになったのでしょう。カナデ様にとって、ここでの生活は慣れない事の方が多いのですから」
「うん……でも、迷惑かけちゃって……ごめんなさい」
「迷惑だなんて思っていませんよ」

 アルバの優しい笑顔と声に、心地よさと安心感を感じる。
 こうやって誰かが傍に居てくれるのは、三年前に師匠と離れて以来だ。
 火竜宮に入ってまだ日は浅いが、それでも一人旅で張りつめていた神経が、見事にゆるゆるになった気がする。
 そんな事を考えていたら、廊下の方から足音が聞こえる……音の主の正体は想像できるが。

「カナデっ!! 大丈夫か!?」
「ちょっとイグニ様、病人の部屋で大声出さないでくださいよ」
「あ……すまない」

 やっぱりイグニ様とロドだった。
 今にも詰め寄って突進してくる勢いのイグニ様を、ロドが踏ん張って止めてくれている。

「イグニ様、カナデ様は安静にしてなきゃいけないんですよ。分かってます?」
「分かっている……だが心配で」

 完全に呆れ顔のロドは、怒られた大型犬のようになったイグニ様に釘をさした。
 元気な時ならまだしも、今の状態でイグニ様の惜しみない愛情・物理を受けるのはさすがにキツい。

「イグニ様、すみません……でも、休めば元気になりますから……」
「ほら、具合の悪いカナデ様に、気を遣わせちゃ駄目ですよ。少し様子を見るだけって約束だったでしょう」
「……しかし……カナデにもしもの事があったら、俺は生きていけない……」
「そんな事にならないように、アルバとフラムさんが居てくれてるんでしょう。それに、そんな状態のイグニ様が張り付いてたら、カナデ様だって休むに休めませんよ」

 今はロドが正論と踏ん張りで止めてくれているからいいものの、彼が居なかったらイグニ様の突進コース一直線だったかもしれないな……。
 竜人にとって番というのは、自分の命と同じ……それ以上の存在にもなりうるとは聞いているが……。
 逆の立場だったら、俺もイグニ様の心配はするだろう。
 だけど、生きていけないというほど大げさにするには、ちょっと重いような気もするし……いや、大事にしてもらっている事は素直に嬉しいし、彼らの感覚を否定したいわけじゃないけどさ。

 多分……多分だけど、俺の中にはイグニ様に素直に甘えたい気持ちと、まだ遠慮している気持ちが混ざっているんだと思う。
 俺が番だから、イグニ様もみんなも優しくしてくれる。
 じゃあ俺が番でなかったら? 答えは単純、目に留められる事すら無かっただろう。
 みんなが大事なのは番であって、俺自身じゃない……なんて、拗らせてるのか捻くれてるのか分からないような事を考えると、複雑な気持ちになる。
 俺も番の感覚が分かる竜人、あるいは獣人や鳥人だったら、余計な事を考えずに素直に受け入れて、幸せになれたのかな。