温室の工事が始まって数日たった頃、別件の話があると言ってイグニ様に呼ばれた。
四竜王様の番様は、竜王様のパートナーとして公務の場に同席する事も多い、という話をチラッと聞いたから、その事だろうか?
「カナデ、急に呼び出してしまってすまない。そろそろ君にも、番としての役割を話さなければならないと思ってな」
「はい……一緒に公務に出る、とは聞いているんですが」
「ああ、俺のパートナーとして、そういった場に出席してほしい。だが、気負わなくても大丈夫だ。ロンザバルエで毎年行われる大きな催しや、他国の要人も出席するパーティーへの参加くらいだ」
「あの、それって、やっぱりマナーとかも……」
「他国に行くわけではないから、覚える必要は無い。元々我々の国は自由な風土だったから、その手の事でうるさく言う者はいないからな。だから、フォトーものびのびしているだろう」
確かに、フォトーさんのやんちゃな食べ方や突然の疾走にも、周りはみんな慣れた様子だし、特別に注意もしていないみたいだった。
俺はそういう上流階級という世界に縁は無く、物語の中の内容しか知らなかったから、演劇に影響されすぎてたかもしれないな。
「それじゃあ、俺が準備する事はありますか?」
「当日に正装で参加してくれれば十分だが……念の為、催しの内容や出席者の事をざっくりと把握しておいてくれれば、当日は過ごしやすいだろう」
「分かりました」
「その準備の事も踏まえてになるが、カナデにも専属従者を付けようと思うんだ」
「専属従者、ですか?」
「ああ。茶会の時、兄弟と番たちの傍に、竜人兵が二人づついるのを見ただろう? 彼らは四竜王と番付きの従者だよ」
ああ、俺が圧倒された、あの人達か。
専属従者という事は普段の生活はもちろん、いろんな場所で俺と一緒に行動する相手というわけだ。
優しい人ならいいけど、きつい性格の人だと、ちょっと苦手だから困るな……。
「番の専属従者は、普通なら竜王に任命された者がなるのだが……ちょっと特殊な事情が起こってな」
「特殊?」
「ああ、前例に無く、立候補した者がいた。俺もあいつなら問題はないと思うのだが……君の専属従者は、アルバでいいかい?」
「アルバですか!? はい、もちろんです!」
アルバとロドは、てっきりイグニ様の従者だと思ってたから、別の人が俺の所に来ると思っていたけど……。
でも、ここに来てから仲良くなったアルバが傍に居てくれるなら、俺も安心だし嬉しい。
「そう言ってくれてよかった。アルバは番としても君と同じ立場だから、相談もしやすいだろう。俺とロドも番としては同じ立場だしな」
「え? それって……?」
「ん? 言っていなかったか? ロドとアルバは番同士だよ」
「ええ!? は、初耳です!!」
あの二人、そうだったの!?
けっこう一緒に居たけど、全く気付かなかったんだけど……。
「驚くのも無理はない。同じ竜人、しかも火竜同士で番になるなど、奇跡とも言える確率だ。それに、二人とも公私混同はしないから、そんな素振りも見せなかっただろう」
「はい……あれ? でも番って、男女のペアじゃないんですか?」
「それは種の存続を重視する獣人や鳥人の場合だな。肉体自体が強固で長い時間を生きる竜人は、子を成す事は滅多に無い。我々が頻繁に子作りできたら、世界が竜人で溢れかえってしまうからね。だから竜人の番は相手が男、あるいは卵を産めない人族や獣人の娘が多いんだよ」
「竜人に女性は居ないんですか?」
「居ないわけではないが、非常に少ない。それに、彼女らが卵を産める周期も、千年に一度ほどだ」
なるほど……きっと竜人のおしくらまんじゅうな世界にならないように、自然とそうなっているんだろう。
「さて、話が逸れてしまったが、本題に戻ろう。もうすぐ他国の要人との交流パーティーがあるから、カナデにも出席してほしい。だが、おそらく君を目当てに来る者もいるだろう。不快な思いをさせてしまうかもしれないが……必ずフォローはするから、終わるまで俺から離れないようにしてくれ」
「分かりました」
イグニ様が傍にいてくれるとはいえ、他国の要人とのパーティーなんて、やっぱりちょっと不安だ。
心の準備は必要だし、パーティーの内容と出席者の事を、アルバにしっかり聞いておかないとな。